東北大学工学研究科・工学部
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2012/12/03

電気エネルギーシステム専攻の一ノ倉理教授、中村健二准教授、後藤博樹助教は磁石レスで大出力トルクのモータ開発に成功しました

<概要>
工学研究科電気エネルギーシステム専攻の一ノ倉理教授、中村健二准教授、後藤博樹助教は、レアアース磁石を一切用いずに現状のレアアース磁石モータなみのトルクを有するアキシャルギャップ型スイッチトリラクタンスモータを世界に先駆けて開発しました。今後は、電気自動車への適用および走行試験などを通じて、実用化に向けた検討をさらに進めていく予定です。

1.背景
環境保護や省エネルギーの観点から、普及が進んでいるハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)の駆動用モータには、強力な磁力を有するレアアース(希土類)磁石が使用されていますが、レアアースは産出される地域が偏在しているため、常に供給の不安定さと価格高騰のリスクにさらされています。そのため、最近では、レアアースの使用量を削減した磁石の開発や、レアアース磁石を安価なフェライト磁石で代替する試み、リラクタンスモータなどの磁石レスモータの見直しなどが、産学官研究機関で行われています。
スイッチトリラクタンスモータ(以下SRモータ)は、固定子が鉄心と巻線、回転子は鉄心のみという単純な構造の磁石レスモータで、非常に頑丈で高温に強いという特長を持つため、HVやEV用駆動モータとして期待されますが、同じサイズのレアアース磁石モータに比べるとトルクが小さいという問題が指摘されておりました。

2.研究成果の概要および本成果の意義
上記の課題に対して、我々の研究グループは、鉄 - コバルト系の高磁束密度磁性材料を鉄心に使用することにより改善を目指してきましたが、コバルトを大量に使用するため、コストが問題でした。
そこで、SRモータの構造を見直し、一般的なラジアルギャップ型(図1)からダブルロータタイプのアキシャルギャップ型(図2、図3)に変更することで、トルクの改善を試みました。更に、鉄心材料に高コストの鉄‐コバルトを使用せず、通常のモータ鉄心材料であるケイ素鋼板を利用することによりコストの削減を図りました。
図4の◆は、試作したアキシャルギャップ型SRモータ(図3)の実測トルクであり、実線と破線は、同一サイズ(モータ直径266 mm、モータ長130 mm)、同一極数(固定子18極、回転子12極)にてアキシャルギャップ型とラジアルギャップ型のSRモータのトルク密度対巻線電流密度特性を計算したものです。これをみると、アキシャルギャップ型SRモータは従来のラジアルギャップ型に比べて大幅にトルクが改善されることがわかります。自動車用モータの出力の目安とされる巻線電流密度20 [A/mm2]におけるトルク密度を比較しますと、アキシャルギャップ型SRモータは39.6 [N•m/L]で、従来のラジアルギャップ型SRモータの約1.5倍です。現行のハイブリッド動車に使用されているレアアース磁石モータのトルク密度は35〜45 [N•m/L@20 A/mm2]と報告されていますので、これに匹敵するトルク密度が達成されたと言えます。
これまで磁石レスモータは、レアアース磁石を用いたモータと比べて、トルクや効率が低いと考えられていましたが、本成果により、モータの構造を工夫することで同等程度の性能を実現できる可能性が示されました。これはSRモータに代表される磁石レスモータの研究開発に新たな展開を与えるとともに、この分野の発展に寄与するものと考えられます。

図1、図2、図3
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図4
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図5
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3.今後の展望
今後は、今回開発したアキシャルギャップ型SRモータを、インホイールダイレクトドライブモータとして電気バス(図5)に適用し、実走行試験などを通じて、実用化に向けた検討をさらに進めていく予定です。アキシャルギャップ構造は、永久磁石モータではそれほど珍しくはありませんが、SRモータでは初めての試みです。今後、最適形状や最適設計法の確立を図ることにより、レアアース磁石モータの性能を超える磁石レスモータの実現も夢ではないと考えています。
なお、本リリース内容の成果は、(株)日立製作所日立研究所との共同研究で実施した内容を含んでおり、実験に使用したアキシャルギャップ型SRモータの製作には日立製作所のご協力を頂きました。

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

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