東北大学工学研究科・工学部
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2013/06/27

二酸化炭素を原料として有用な化学品製造が可能に -二酸化炭素とメタノールからの炭酸ジメチル製造法の開発に成功- (応用化学専攻 冨重教授、中川准教授)

大学院工学研究科の冨重圭一教授らの研究グループは、新日鐵住金株式会社との共同研究にて、地球温暖化の主原因物質である二酸化炭素を、メタノールと反応させることで、プラスチックの原料やリチウムイオン二次電池の電解液として有用な炭酸ジメチルへ変換する高効率な触媒反応系の開発に成功しました。この反応系が将来的に工業化されれば、ホスゲンなどの有害な物質を用いずに二酸化炭素を原料として有用な化学品製造が可能になると期待されます。

開発した反応系では、酸化セリウム(CeO2)を触媒に用いて、二酸化炭素とメタノール、ニトリル脱水剤(2-シアノピリジンなど)を反応させることにより、炭酸ジメチルを最高収率94%(世界最高)で得ることができます。反応後にニトリル脱水剤はアミドに変換されますが、炭酸ジメチル、アミド、触媒は容易に分離することができます。さらにアミドをニトリル脱水剤へ再生することで、二酸化炭素から高収率でDMCのみを製造するプロセスの構築にも成功しました。
この成果は2013年6月26日付のワイリー社発行の学術雑誌ChemSusChem(注1)に掲載されました。

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1.背景

 二酸化炭素排出削減の観点から、二酸化炭素を原料に用いる反応が注目されています。炭酸ジメチル(DMC)は、ポリカーボネート樹脂の原料やリチウムイオン二次電池の電解液として幅広く利用されており、近年注目されている物質です。DMCは二酸化炭素と二等モル量のアルコールから合成が可能です(式1)。この反応は目的生成物のDMC以外に水しか副生しない低環境負荷な反応です。
(式1)
そのためDMCは二酸化炭素変換のターゲット物質として期待されています。しかし二酸化炭素は化学的安定性が高いことから、熱力学的な制約を受け、適切な触媒を用いてもDMC収率が1%程度しかありませんでした。そこで反応系内からの脱水によるDMC収率の向上が試みられてきました。しかし、これまでの研究例では2000気圧の超臨界流体を加熱・冷却させる大掛かりな装置を用いても、DMC収率は最大でも45%にとどまっていました。

2.研究成果概要および本成果の意義
 今回開発した触媒系では、酸化セリウム触媒を用いて、メタノールに脱水剤の2-シアノピリジンを加えた溶液を50気圧の二酸化炭素で加圧し、120℃で反応を行いました。12時間後にDMCの最高収率は94% となり、従来の触媒系よりはるかに高い値を得ることに成功しました。反応後には触媒、DMC及び2-シアノピリジンの脱水により生成した2-ピコリンアミドを含む固体が析出しますが、これらは容易に分離が可能です。触媒活性成分の反応溶液への溶出は観測されず、触媒を反応後回収して焼成処理し反応に再使用する操作を3回繰り返しても活性の低下は見られませんでした。また、脱水により生成した2-ピコリンアミドを2-シアノピリジンに戻す再生反応に有効なアルカリ金属(ナトリウムなど)担持シリカ触媒の開発にも成功した。DMC合成と脱水剤の再生という2つの反応を行うことにより、二酸化炭素から高収率でDMCのみを製造するプロセスが可能になります。
本研究による二酸化炭素とメタノールからのDMC合成は、二酸化炭素を有効利用するプロセスとして、その排出量低減に貢献すると考えられます。さらに既存のDMC製造プロセスに、低環境負荷という新たな価値を加えることが期待されます。今後、さらなる触媒とプロセスの改良による効率の向上に取り組んでいきます。

(注1)ChemSusChem:持続可能な発展を支える化学の分野におけるImpact Factor (7.475) の論文誌。
[http://] onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/(ISSN)1864-564X

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