北欧留学で世界を知り、進むべき道を確信。
「工学の力で世界の格差をなくしたい」
東北大学 大学院 工学研究科 化学工学専攻
猪股研究室
滝沢翠里
“言葉の壁”へのリベンジを誓い、再び海外研修へ。
向上心を刺激され、高難度の卒業研究に挑む。
滝沢さんの“リベンジ”は、学部3年の時、同じく工学部主催の「国際工学研修」から始まった。ポーランドの工科大学、チェコの研究室、アウシュビッツ、製鉄所。初めて訪れた中央ヨーロッパで、開放的なキャンパスライフ、女子学生が多く通う工学部の様子に驚いた。「日本の工学部は女性が少ないんですよね。でも、ヨーロッパでは男女の比率が他の学部と同じくらいいて。いい環境だなと素直に思いました。そして、学部時代から何度も海外に出られる東北大学工学部の環境にも、あらためて感動しました」以前学科の授業で訪れたプラント工場で製造プロセスに興味を抱いていた滝沢さん。海外研修で磨かれた向上心を胸に、4年生ではプロセス全体に関わる最適化の研究を行っていた猪股研究室を選んだ。研究テーマは「プロピレン共重合体に対するモノマー溶解度および拡散係数の測定と推算」。手探りの毎日だったと振り返る。「研究って、決して派手ではないんです。結果がなかなか見えないし、そもそもゴールがどこかもわからない。春から始めた研究でしたが、冬になって初めて、自分が何をしているのかわかってきたくらいでした」何度も失敗をくり返しながら、「やればできる」と信じて取り組んだ。


戸惑いと気づきに満ちたデンマーク留学。
語学を磨くと、世界が見えた。
無事に卒業研究を終えると、大学院への進学を決めた。やり残したことがあったからだ。「研究の技術はもちろん、学部2年と3年で参加した海外研修だけでは国際的な力が足りないと感じていたんです。だから、大学院1年目の秋から1年間、交換留学に行くことにしました」留学先は、デンマーク工科大学。日本とはまるで異なる社会システム、英語とデンマーク語がメインの会話、北欧ならではのコミュニケーション感覚に、戸惑うことも多かった。「はっきり言わないと伝わらないんですよね。自分の意見を明確に話すことに慣れるまで、時間がかかりました。でも私はもともと話すのが好き。みんなの会話に入りたくて、積極的に話しかけて語学力を磨きました」会話がスムーズになると、授業も友人関係も自然と充実。デンマーク人をはじめ、様々な国の留学生と親しくなった。その中の一人が、自分の国では女性が学ぶことが奨励されていないのだと教えてくれた。生まれた環境によって、世界が広くも狭くもなることを、知った。

自分が本当にやりたいことを自覚した今。
「世界の経済格差をなくしたい」
教育こそが人の基盤。思う存分勉強できる環境は、決して当たり前ではない。滝沢さんが留学で学んだことの一つだ。また、留学前は周囲に合わせようとしていた自分にも気づいた。日本の常識が世界の常識じゃない。誰が何を言おうと、気にすることはない。やりたいことをやろう。滝沢さんは帰国後、留学で目の当たりにした“世界の格差”に挑むことを決意した。「ずっと工場の製造プロセスに興味を持っていましたが、発展途上国からきた留学生たちと話すうちに、自分が本当にやりたいことを自覚することができました。今は、化学や工学の分野で、世界の経済格差是正に貢献したいと思っています」進む先は、エネルギー産業か、インフラ整備か。まだ手つかずの研究領域を模索するのも面白いかもしれない。滝沢さんの足元には、無限の可能性が広がっている。「世の中を見渡してみると、身の回りの物はほとんど工学から生まれているんです。電気も、ガスも、クリーニングの技術だってそう。みんな知らないだけなんです。産業に近い分野だからこそ、きっと世界の常識も変えられる。いくら失敗しても、挑戦し続けたいと思います」


東北大学 大学院 工学研究科 化学工学専攻
猪股研究室
滝沢翠里

2010年、長野県屋代高等学校理数科を卒業、東北大学工学部に入学。2011年、工学部主催の「創造工学研修」に参加。初めて海外で研究発表を行い、海外での活躍を目指すようになる。2012年、「国際工学研修」でポーランド、チェコの工科大学、製鉄所を見学し留学を決意。東北大学大学院工学研究科へ進学後、1年間の交換留学へ。2015年6月帰国、現在に至る。