コンクリート技術開発でインフラを進化させる。
スペシャリストとして必要とされる喜び。
株式会社大林組 技術研究所 生産技術研究部 主任
技術士(建設)/コンクリート主任技士/
コンクリート診断士
片野啓三郎
“安全で当たり前”の道をつくる。
その第一線に、大手ゼネコン研究職。
縦に長い島国、日本。決して広いとは言えない国土だが、その形状から北端と南端では50℃もの気温差が生じることもある。気候は一年を通して変化に富み、動物も植物も、水質も土質も実に多様だ。しかし、どんな県にもどんな離島にも、人が暮らすおおよそすべての場所に道路はある。それぞれの土地の環境を活かしながら、時には土地の素材を使用し、人とモノをつなぐ道路は造られているのだ。私たちが普段何の不安も抱かず、道路を“安全で当たり前”と感じていられるのは、表面からは見えない堅固な土台、橋梁、トンネルなど、優れた土木構造物の力があってこそ。つまり、耐久性に優れたコンクリート開発・製造技術なくしては、“安全な道路”は“安全”であり続けることができないのだ。片野啓三郎さんは、そんなコンクリート技術開発を行う若手研究者の一人。建設技術の研究開発分野においてトップクラスの実績を持つ株式会社大林組で、「研究職」という大手ゼネコンに欠かせないポジションに立ち、インフラの要、道路建設を支え続けているのだ。「研究者という道は想像していなかった」と話す彼の第一の転機は、高校時代。何気なく手に取った一冊の雑誌から、未来に続く道が始まった。


芸術的な美しさに魅了され、建築を志す。
浮かんだ進路は、東北大学だけ。
パズルやクロスワードなど、問題を解く遊びに没頭した幼少期。わからないことがあると、すぐに周囲の大人に質問する子どもだった。勉強熱心で、すぐに辞書をひいていた祖父の影響だろうと片野さんは振り返る。「今でも、ふとした会話の中で気になった言葉の意味、語源などはすぐ調べます。でも小さい頃からガリ勉というわけではなくて、中学まではサッカー、高校からはスケートボードに熱中して、外で友達と遊ぶのが好きな普通の子どもだったと思います」転機の引き金は、高校時代に何気なく手にした一冊の建築雑誌。なぜ手に取ったのか今では定かではないが、気がついた時には建築の魅力に引き込まれていた。フランク・ゲーリー、アントニ・ガウディ。芸術のような建築物の写真は、何度見ても飽きることはなかった。しかし残念なことに、自分には芸術センスがない。そう思った片野さんは、美しい外面ではなく、内面の構造をつくる人になろうと決意。進学先に浮かんだのは、東北大学だけだった。「偏差値も学費も実家からの距離も、すべて希望通り。東北で建築を学ぶなら、東北大学しかない」1年間の努力が実り晴れて現役合格。実際に講義が始まると、自ら学ぶ東北大学の風土、学びに対してオープンな雰囲気を全身で感じた。建築の構造を支えるという夢に、着実に近づいている気がした。

「土木」との衝撃的な出会い。
誠実な工学者たちへの感謝と感動。
岐路は突然訪れた。2年生の講義で、「土木工学」と「建築工学」の違いを初めて知ったのだ。それまで「建築」しか考えてこなかった片野さんにとって、「土木」との出会いは衝撃的だった。「建築は、芸術的で美しい。土木は、見た目は地味だけどすごい。素直にそう感じました。橋梁、ダム、トンネル。当たり前のようにどこにでもあるけれど、当たり前すぎて誰にも気づかれない。でも、気づかれなくても、感謝されなくても、工学者として誠実にインフラを支えてきてくれた人々がいた。そう思ったらすごく感動したんです。まさに縁の下の力持ちですよね」3年生でコンクリート工学の講義を受けた片野さんは、その奥深さに魅了され、4年生から所属する研究室を「コンクリート工学」に決定。コンクリート研究のエキスパートである久田真教授のもとで、卒業研究に没頭した。テーマは、「コンクリート中への塩化物イオンの侵入挙動に関する研究」。海の近くにあるコンクリートの中の鉄筋が錆びていく現状から、海水がどのようにコンクリートの中に入り込んでいくのかを調べる研究だった。並行して行われていた大学院への入学試験も、無事合格。このまま大学院に進むことが自然だった。しかし片野さんの心の奥では海外と就職への興味が膨らみ、抑えることができないまでに大きくなっていた。


株式会社大林組 技術研究所 生産技術研究部 主任
技術士(建設)/コンクリート主任技士/コンクリート診断士
片野啓三郎

2002年、福島県立安積高等学校卒業。2006年、東北大学工学部土木工学科卒業、東北大学大学院土学研究科土木工学専攻へ。2008年3月に同専攻を修了、同年4月株式会社大林組入社。エネルギー備蓄タンク設置のトンネル工事、老朽化したトンネルの天井撤去工事等に携わり、現在は同社内コンクリート実験場にて最新のコンクリート研究プロジェクトを推進中。