コンクリート技術開発でインフラを進化させる。
スペシャリストとして必要とされる喜び。
株式会社大林組 技術研究所 生産技術研究部 主任
技術士(建設)/コンクリート主任技士/
コンクリート診断士
片野啓三郎
海外に挑戦したい。
迷う度、導いてくれた先生。
4年生の秋、ついにとあるゼネコンの門を叩いたが、将来を決める決断は重い。迷いの中、片野さんは久田教授を訪ねた。「焦らなくていいんじゃないか」その一言に肩の力が抜けた気がした。「あの時就職していたら、今の仕事には出会えていませんでした。研究の仕事ができるのは、大学院で学んだ知識があるからこそ。久田先生には本当に感謝しています」大学院では、コンクリートの中に入った塩分を抜く技術の実用化に向けた研究を行った。コンクリートを作り、電気を流す回路を考え、イオン濃度を調整し… ゴールの見えない研究に、何度も心が折れそうになった。その度に、研究室の仲間と励まし合って乗り越えた。つらくても、孤独を感じることはなかった。「時間のかかる研究、作業にも、辛抱強く対応できる力は、この頃に培われたと思います。今の自分に欠かせない経験でした」大学院2年、再び進路を考える時期が訪れた。今度こそ海外に挑戦したい。そう思っていた片野さんはプラント建設に携わる会社を数社受けたが、自分が求めていたフィールドではないことを実感したという。再び迷い始めた時、久田教授から声をかけられた。「コンクリート研究者」を募集している会社があるという話だった。その会社は、建設技術研究開発でトップを走る大手ゼネコン、大林組だった。


背中を押され、研究者の道へ。
その先には“誇りに感じる仕事”。
「実は、大学院1年のインターンシップ先が大林組だったんです。秋田県のダム建設現場で2週間、大林組の技術者の方と、文字通り寝食をともにして、本当の土木の現場を見せていただきました。会社の雰囲気も、仕事の現場も知っていたので安心感はありましたが、研究者の道は想像していなかったので、即決できずにいたんです」迷った末、研究室でお世話になっていた准教授を訪ねると「大林組ならぜひ行った方がいい」と背中を押された。民間企業での勤務経験を持つ先生の言葉に、強い説得力を感じた。もう迷わない。片野さんは研究者として歩む道を選択した。入社1年目、都内のラボでコンクリート基礎研究を行い、2年目の秋からは愛媛県へ。約10ヵ月にわたり、天然ガスなどの備蓄タンクを設置するトンネル工事に携わった。その後本社での現場技術支援などを経験し、4年目からはラボでの研究の日々が再開。「ラボに戻った後一度だけ、老朽化したトンネルの天井板撤去工事の現場に参加したことがありました。笹子トンネルの事故の後だったので、とにかく安全を最優先して工事を進めていきました。最終的には目標にしていた工期を7時間オーバーしてしまったんですが、発注者からは事故なく安全に再開通できたことに対し、お褒めの言葉を頂戴しました。社会貢献度の高い、誇りに感じる仕事でした」

スペシャリストとして必要とされる喜び。
すべての出会いを糧に、道をつくる。
現在取り組んでいる研究テーマは、海水を使ったコンクリート製造。「海水を使用すると、コンクリート自体の耐久性は上がるんですが、中の鉄筋は錆びてしまうというのがこれまでの常識でした。でも今は錆びにくい鉄筋の研究が進んでいます。コンクリートの材料は、セメント、水、砂利、砂。錆びない鉄筋と強いコンクリートを造る技術があれば、離島や沿岸部、災害の直後など、真水を調達することができない場所でも、コストや時間を短縮して安全な道路をつくることができるんです」多くの国家的プロジェクトに携わり、インフラの要である土木建設材料を研究し、学会活動では毎年海外へ。ゼネコンの研究職として、彼が今感じているやりがいは。「スペシャリストとして周囲に求められること、ですね。社内外で年齢も関係なく、自分にしかわからない技術や知識について頼ってもらえるのは嬉しいことです。そんな今の自分があるのは、東北大学で学んだ6年間があるから。土木に出会い、研究に真っ直ぐな友人たちに出会い、有名な久田先生のもとで研究し、卒業してからは多くのOB・OGに可愛がっていただいている。すべて東北大学でなければ得られなかったと思います。道を拓いてくださった先生や先輩たちのように、自分も『さすが東北大学』と言われるよう、頑張っていきます」多くの人が通る大道も、細く長い道も。後に続くまだ見ぬ人のために、片野さんは強く堅い道をつくり続けていく。


株式会社大林組 技術研究所 生産技術研究部 主任
技術士(建設)/コンクリート主任技士/コンクリート診断士
片野啓三郎

2002年、福島県立安積高等学校卒業。2006年、東北大学工学部土木工学科卒業、東北大学大学院土学研究科土木工学専攻へ。2008年3月に同専攻を修了、同年4月株式会社大林組入社。エネルギー備蓄タンク設置のトンネル工事、老朽化したトンネルの天井撤去工事等に携わり、現在は同社内コンクリート実験場にて最新のコンクリート研究プロジェクトを推進中。