「退屈だと思ったことは1秒もない」
基礎研究の領域で
後輩育成に力を注ぐリーダー。
日本電信電話株式会社 NTT物性科学基礎研究所
量子光物性研究部 量子光デバイス研究グループ
研究主任 博士(工学)
国橋要司
世界トップレベルの研究者を目指し、
支援組織の狭き門にチャレンジ。
学部4年生から所属する研究室は、いくつかある半導体工学研究室の中から、スピントロニクスに特化した「新田研究室」を選んだ。卒業研究のテーマは、スピンを長持ちさせること。半導体の中でスピンを長持ちさせる方策を解明し、大きな成果を出した。研究第一主義を貫く第一線の研究者たちが集う東北大学。整った研究環境に惹かれ、そのまま東北大学大学院修士課程に進んだ。「修士2年の時、初めて海外の国際会議に出席したんです。当時所属していた『東北大学国際高等研究教育院』の制度を活用しました」。「東北大学国際高等研究教育院」とは、既存の研究の枠にとらわれず、異分野が融合してつくられる新領域の学際的研究を進め、世界トップレベルの研究者を目指す若手研究者のための支援組織。さまざまな規準を満たし応募した研究者の中から、特に優秀な者だけが選抜される。奨学金の支給のほか、研究計画に応じた研究費助成や国際会議出席への道が広く拓かれるとあって、狭き門にチャレンジする研究者は少なくない。国橋さんも、その一人だった。「国際高等研究教育院では他学科の授業を受けることが必須。応用物理学の授業を受けたのですが、とても楽しかったことを覚えています」


最初の国際会議で得た自信と確信。
巣立った先は、日本では希少な基礎研究所。
初めての国際会議へ。緊張の発表を終えた後、自分の研究を掲示したパネルの前に、海外の研究者がたくさん集まっていることに驚いた。こんなに注目してもらえるなんて。若くても、修士でも、成果を出したら認めてもらえるんだ。若手研究者としての、大きな自信が生まれた。「新田研究室でよかったと、心から思った瞬間です。世界に注目される研究ができる環境は、望んでも簡単に生まれるものじゃないですから。もちろん、環境だけで成果が出るわけではありませんが。博士課程もこのまま東北大学で、とあらためて決意できた出来事でした」。この後もいくつか出席した国際会議で、もう一つ、大きな気づきがあった。「NTT物性科学基礎研究所」の存在だ。同社が頻繁に国際会議に出席していること、所属する研究者には、自分と同じスピントロニクスの分野に興味を持っている人が多いこと。興味を持って調べると、NTTは論文の被引用数でも世界2位という実力ある研究所であることがわかった。基礎研究所を有している企業は、日本にほとんどない。10年後、20年後を見据えた基礎研究を続ける先駆者に強く惹かれ、その後さらに、論文共著に取り組んだこと、恩師・新田教授の出身企業であることなどから「NTT物性科学基礎研究所」への就職を決めた。

退屈だと思ったことは1秒もない。
どんな形でも研究に携わり続けたい。
10人ほどの研究者でチームを組みながらも、基本的に1人1本ずつテーマを掲げ成果を目指す「NTT物性科学基礎研究所」。日本中の優秀な若手研究者が集まり切磋琢磨し合う、国内では稀有な研究環境が築かれている。しかし、明確なスタートさえ用意されていない基礎研究という領域。苦しさを覚えることはないのだろうか。この問いに、国橋さんは笑って答えた。研究者は、やりたいことを続けられる、ラッキーな仕事であると。「私は、誰も知らなかったことを発見したい。世界を驚かせたい。そんな自己実現欲求から研究を続けています。そして、この欲求を呼び起こすのは、刺激。海外で研究を発表したり、同世代の活躍を見たり。研究の原点である東北大学には、大きな刺激がたくさんありました。退屈だと思ったことは1秒もないんです」。研究の成果の8割は、当初の想定だけでは得られなかったもの。だからこそ視野を広く持ち続けたいと語る国橋さんには、未来を見据えた目標がある。「若いうちに、いい研究結果を出したい。究極的には、誰にでも、小さな子どもにでも理解できる、わかりやすい研究で結果を出したいですね。たとえ自分が論文の第一著者でなくてもいいんです。チームの後輩たちを育て引っ張りながら、世界と戦いたい。日本を強くしたい。いつか研究者として現役を退いたとしても、どんな形でも研究に携わっていきたいと、強く願っています」


日本電信電話株式会社
NTT物性科学基礎研究所
量子光物性研究部
量子光デバイス研究グループ
研究主任 博士(工学)
国橋要司

2005年、国立東京工業高等専門学校物質工学科卒業、東北大学工学部材料科学総合学科へ3年次編入。2007年、東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻入学。2012年、同新田研究室博士後期課程修了。同年「日本電信電話株式会社」へ入社、NTT物性科学基礎研究所へ配属。