「これからは工学が医療を発展させていく」
がん治療の最先端、粒子線治療装置開発。
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
放射線治療システム事業部
設計本部 システム設計部 システム計画グループ
伊藤友紀
技術力と人柄にひかれ、日立製作所へ。
ものづくりの最初のラインを引く。
大学院での研究テーマは、粒子線と抗がん剤を併用した治療による効果の測定。就職先でも粒子線治療に携わり続けたいと願っていた伊藤さんは、国内で粒子線治療装置を扱う企業に絞り、就職活動をスタートした。「ちょうどその頃、国内のある企業が、粒子線治療の新しい照射法を用いた装置を世界で初めて商用化したというニュースが出たんです。私たちが研究室で苦労していた課題を、最先端の技術で突破している。素晴らしいと思いました。それが、日立製作所だったんです」実際に面会した人事担当者や先輩社員の人柄にもひかれ、迷いなく入社を決意。希望通り、粒子線治療装置の設計開発に携わることになった。日立製作所での伊藤さんの仕事は、粒子線治療装置の設計書を作成すること。装置の導入を希望する病院の要望を聞き取り、ものづくりの最初のラインを引き始める役だ。「粒子線治療の装置は、実用化されているとはいえ、世界的にはまだまだ普及していないのが現状です。最先端の技術を用いているため、費用などの面から、導入までのハードルが低くないのです。しかも、お客様、つまり病院によって求められる性能や機能が異なるため、量産品ではなく、セミオーダーのように一つひとつ細やかな設計が必要なことも多い。期待以上のものをご提供できるよう、常にお客様のご要望を理解することに努め、寄り添うことが大切なのだと感じています」


一番注意していることは「安全性」
技術者としてのやりがいに満ちた日々。
技術の最先端を切り拓く面白さと、実際に使用する病院や治療を受ける患者への思い。両方の大きさを肌で感じながら、伊藤さんは現在も粒子線治療装置の設計開発に挑んでいる。「一つの装置ができるまでには、社内だけで数百人が関わっています。設計図を起こし、部品を製作し、組み立て、検査し、工程を管理しながら、納品を目指す。工学はものづくりとよく言われますが、本当に壮大なものづくりですよね」機器の製造に携わる中で一番注意していることは、「安全性」。機械の自動化が推し進められる現代、粒子線治療装置もオートメーション機能を強化させているという。しかし、操作する人の負担が減る分、装置自体の性能の高さ、正確性が求められることは言うまでもない。「がん治療のための粒子線ビームを、安全にコントロールすること。私たちが何よりも大切にしていることです。また、装置を納品した病院からは改善点などをフィードバックしていただき、より価値の高い装置を生み出せるよう、分析を重ねています。最近ようやく『粒子線のスタンダード』と呼べるものができつつあるところなんですよ」技術者としてのやりがいに満ちた仕事は、伊藤さんにとって天職なのだろう。仕事について話す姿からは、誇りと自信が感じられた。

想像していなかったことを可能にするのが工学。
治療後のQOL向上を目指して。
仕事や育児、日常生活を営む幸せを諦めることなく、通院でがん完治を目指せる時代へ。伊藤さんの目標は明確だ。「粒子線治療を必要としている人に届けたい。この技術をもっと広めたいと強く願っています。具体的には、導入していただく病院を増やし、治療を受ける患者さんが増えることで、保険適用の範囲を増やしたいですね。そうすれば、導入する側の病院も、治療費を負担する患者さんも、検討しやすくなる。遠い未来ではなく、なるべく早く、粒子線ががん治療のスタンダードな選択肢に入るようになればと思っています。近年では国内だけでなく、世界中から、特に新興国からの打診やオーダーも増えてきているんですよ」がん治療の心身への負担が減ることで、治療後のQOL(クオリティオブライフ:自分らしく生きる人生の質)をも高めることができる。病気が判明しても絶望せず、夢を持って毎日を送ることができるようになる。どれほどの人の未来を明るく照らす光になるだろう。最後に、今日までに歩んできた道、選んできた岐路を振り返ってもらった。「実は昔、進路を選ぶことは自分の将来を狭める作業だと感じていた時期があったんです。でも東北大学に入ってから、一つを選んだ先に、さらに選択肢が広がっているのだと実感できました。想像していなかったことを可能にするのが工学。私は粒子線という分野で、これまで想像できなかったことを形にして、世界中に広めていきたいと思います」


株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
放射線治療システム事業部
設計本部 システム設計部
システム計画グループ
伊藤友紀

2004年、埼玉県立大宮高等学校卒業。2009年、東北大学工学部機械知能・航空工学科量子サイエンスコースを卒業、東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻へ。2011年、同専攻を修了し、4月より株式会社日立製作所に入社、粒子線治療システムの設計開発に従事、現在に至る。