「待ち望んでいる人がきっといる」
バイオマーカー検査に、新しい道を切り拓く。
コニカミノルタ株式会社
開発統括本部 バイオ要素技術開発室
バイオシステム開発グループ SPFS開発
マネージャー/博士(工学)
彼谷高敏
初めて携わった、体外診断薬の世界。
さらに新しい技術開発の場を求め、新天地へ。
彼谷さんが大学院を出る頃、世の中はいわゆる就職氷河期。それまで自分が研究してきたテーマに関連した就職先を見つけることは、困難な状況だった。「結局、中途採用枠から応募して採用してくれた会社に就職しました。そこが、体外診断薬を扱うメーカーだったんです。深く学んだことのない分野でしたが、基礎から教えてもらい、知識を身につけることができました」3年間勤めるうち、既存の技術を前提とした開発ではなく、新しい技術をベースとした製品開発に携わりたいという思いがふくらみ、転職を決意。面接の中で、自分が求める技術開発への希望を感じたコニカミノルタ株式会社に入社することになった。同社は、もともとフィルムとカメラをルーツに持つコニカとミノルタが経営統合して生まれた会社。創業事業であるカメラ・フォト事業から撤退した後も、長年培ったコア技術をもとに、現在ではオフィスサービス分野やヘルスケア分野といったビジネスを展開し躍進している。彼谷さんは、研究開発部門の「ライフサイエンス技術準備室」に配属。入社2日目、「明日から京都に出張ね」と言われ、京都大学の再生医科学研究所へ。特定タンパク質を高感度に見つける試作装置のSPFS(表面プラズモン共鳴励起増強蛍光分光)技術開発に携わるようになった。「企業の技術開発は、すべて自前で完結できるものじゃないんです。大学や研究所と共同で技術開発を進め、技術を確立していくことがほとんど。私も数ヵ月の間、京都のホテルに泊まり込み、京都大学再生研の岩田研究室に通いながら、SPFSの技術開発に没頭しました」


「待ち望んでいる人がきっといる」
バイオマーカー測定システムの新しい扉を開くために。
SPFS試作装置の開発が順調に進み、次第に規模が拡大していく中、彼谷さんは突如異動することになる。異動先は、「前立腺がん」を対象としたバイオマーカーの新しい検査システムを開発するチームだった。これまで「前立腺がん」の検査は、前立腺で分泌されるタンパク質分解酵素「PSA」をマーカーとして診断していたが、より高精度な診断のため、「PSA」の表面にある「糖鎖」をターゲットとした検査・測定システムを開発しようというプロジェクトだ。「糖鎖」は、タンパク質や脂質に結合して存在し、がん細胞が発生すると特異的な構造に変化する特徴を持つ。短い糖鎖を見分ける技術は約30年前に確立されているが、長い糖鎖に関しては技術開発が進められていなかった。彼谷さんは、長く複雑な糖鎖を簡便に定量する技術によって、がんの有無や、他疾患との区別を明確にできる検査・測定システムを開発したいと考えていた。「私たちのチームは、SPFS技術を用いて、PSA上の糖鎖を自動測定するシステムを開発しました。血液検査だけで、PSAと糖鎖、両方を一度にキャッチして数値化できるようになるんです。がんの検査のハードルを大きく下げる、画期的なシステムです。待ち望んでいる人がきっといる。製品化して一般的に利用されるようになれば、早期発見に大きく貢献できると思うんです」

シンプルな探究心と、自らへの問い。
「研究も人も両方大事」
研究に奮闘する日々。40歳を過ぎ、プレイヤーとしてはもちろん、チームを育成するマネージャーとしての役割も担うようになった。自らの立ち位置が少しずつ変化していくことを感じながらも、彼谷さんの最終的なゴールは変わらない。「研究のための研究では意味がない。最後には世の中の役に立てることをしたいという思いは、東北大学で勉強していた頃からずっと同じですね。もちろん、研究の途中で出てくる課題に対しては、シンプルな探究心で当たっていきます。この現象はどうしたら起きるのか、どのような薬品が必要なのか、本質を知りたい、突き止めたいという探究心がなければ前に進めません。でも、探究の積み重ねの奥には、何のために探究するのかという自らへの問いがある。私は、最終的に社会のために役立つものを、という思いが根底にあります。企業での研究は、真理探究だけでなく、研究の成果を製品として世の中に出すことが目的ですから。難しいこともたくさんありますが、やりがいも大きいですね」目下の目標は、現在取り組んでいるバイオマーカー測定システムを製品化し、社会に出すこと。そして、若いチームメンバーの一人ひとりが、それぞれの得意分野で一流になってくれること。「研究も人も両方大事だというのは、東北大学の研究室で学ばせてもらったことの一つ。今でも後輩が育つ過程を見るのが好きなんです。もし自分が目標を達成できなくても、次の人のために何かを残せればそれでいい。とはいえ、今はとにかくこのバイオマーカー測定システムが医療現場に出て、人々の役に立つのを見たいですからね。まだまだ走り続けたいと思います」


コニカミノルタ株式会社
開発統括本部 バイオ要素技術開発室
バイオシステム開発グループ SPFS開発
マネージャー/博士(工学)
彼谷高敏

富山県出身、茨城県立竹園高等学校卒業。1995年、東北大学工学部入学、2001年、日本学術振興会特別研究員、2004年、東北大学大学院工学研究科生物工学科博士課程修了。体外診断薬メーカー勤務を経て、2007年よりコニカミノルタ株式会社へ。ライフサイエンス技術準備室などで一貫してSPFS開発を担当し、現在マネージャーを務める。