「考えること、ワクワクすることが大好き」
企画・設計・運営を手がける
建築界のイノベーター。
UDS株式会社 代表取締役会長
梶原文生
漕艇部と勉強の両立を通して得たもの。
3年間の会社員経験を積み、起業へ。
埼玉県戸田市にある東北大学漕艇部合宿所に泊まり込み、練習を重ねて出場したソウルオリンピック選考会。最終戦までたどり着いたが、結果は4位。あと一歩が及ばなかった。諦めきれず、建築学科の担当教授に頼み込み、戸田での合宿を延長。4年生の8月に開催される全日本学生選手権と全日本選手権への出場を決めた。結果は、どちらも準優勝。「どうしても優勝したくて、さらに秋の国体まで合宿延長をお願いしたんですが、やさしい教授から、さすがに仙台に戻ってきなさいと言われましてね。名取の合宿所で練習を続けつつ、本格的に卒論に取り組むことにしました。戸田の合宿所にいた時も、あまり授業には出られませんでしたが、建築の勉強は欠かしませんでした。自分だけで勉強するというのは、何をどう学ぶべきかを考えなければいけない、貴重な体験でした」東北大学漕艇部での活動を通し、組織づくり、掘り下げて考え続ける難しさ、楽しさ、得た知識を使いこなす面白さを体得した梶原さん。勉強との両立という難題をクリアし、就職活動ではさらに組織づくりを学ぶため、建築を外側から見つめ直すことができる大手不動産会社を選んだ。1年ごとに建築設計、営業、企画という3部門を渡り歩き、入社時の宣言通り3年で退社。いよいよ起業の時が迫ってきた。


独立後、大きなハードルを超え、
企画・設計・運営を貫くスタイルを確立。
1992年、建築企画事務所「UDS株式会社(当時:有限会社都市デザインシステム)」を設立。ひとりでの独立は、不安よりも自由とワクワク感が勝っていた。建築物の設計をベースに、住み手が集まり協同組合形式で住宅を建てる「コーポラティブハウス」を手がけ、そのシステムを社会に発信。企画から設計、運営まで一貫して行うことで、施工主や利用客の真のニーズを満たせることを実感した。既存の建築設計業務にとどまらず、新しい“仕組み”を世に出すことで、差別化を図る。建築界のイノベーターとして、革新的なスタイルを確立していったのだ。特に「キッザニア東京」や、ホテル「CLASKA」の反響は大きく、優秀な仲間が集まり、事業は順調に拡大していった。「実は途中で一度、大きなハードルもありました。とても厳しい課題で、長く悩みました。なんとか持ち直しましたが、この問題で、建築の技術屋としての専門性、特殊性の大切さを再確認し、当社は以前よりも強くなれたと思います」2011年からは、UDS中国法人を立ち上げるため、家族で中国へ移住。7年間暮らす中、中国市場の難しさを感じると同時に、中国という国、人の強さも肌で感じた。「いい仲間に集まってもらって、企画・設計・運営を一貫して行うUDSスタイルの現地法人ができました。2018年には北京に『MUJI HOTEL BEIJING』も完成し、これからは中国の若い仲間たちが自ら考えてがんばっていくことをサポートしていきたいと思います」

「なぜそう考えるのか?」
大切なのは、自分で考え見つけること。
日本に戻り、より精力的に、ホテル、商業施設、公共施設等の企画設計運営事業を展開。2018年6月に韓国UDS株式会社が設立するなど、梶原さんの描く建築スタイルは国内外で芽吹いている。育成にかける思いとは。「世の中はどんどん変わっていきます。自分たちも柔軟に変わっていかなければなりません。スタッフを育てる時には、組織の論理を押しつけるのではなく、組織の考え方を理解してもらいながら、『君ならどう考える?どう変わる?』と問いかけるようにしています。これは、工学部や漕艇部で学んだことと同じ。東北大学の教授や先輩たちは、私の考えを否定することなく、『なぜそう考えるのか?』と常に問いかけてくれました。掘り下げて考える習慣、答えを自ら探る感覚を教えてくれたのです」建築の面白さは、コンセプトを立て、二次元の紙に落とし込み、三次元の建物に起こしていくこと。梶原さんいわく、“他ではなかなか得られない体験”だ。「建築を含め、工学は自分で考え、答えを見つけ出す学問です。私は考えること、想像してワクワクすることが大好きです。今中高生のみなさんには、受験勉強はもちろん、自分が好きなことは何かをしっかり考えてもらいたいですね。教科書や授業の中では、自分が好きなことは教えてもらえませんから。私も、高校生の時に決意した“世界中の子どもの役に立つ”という目標を叶えるため、自分たちができることを模索し続けたいと思います」


UDS株式会社 代表取締役会長
梶原文生

東京都出身。1985年、東北大学工学部建築学科入学。1989年より大手不動産会社勤務を経て、1992年、有限会社都市デザインシステム(1994年・株式会社都市デザインシステム、2012年・UDS株式会社へ社名変更)を設立。現在は会長としてスタッフ育成、新規事業拡大に力を入れる。東北大学大学院工学研究科非常勤講師。