不安も迷いも糧に変えて進む。
世界が50年間出せなかった成果を求めて。
東北大学 工学部 情報知能システム総合学科
エネルギーインテリジェンスコース
阿部翔太
留学先で自信を失った自分に響いた言葉。
「イノベーションを起こせるのは、理系だけ」
これからの市場はアジア、中でも成熟した中国ではなく東南アジアが発展していくと考えていた阿部さんは、留学先をシンガポールに決めた。1年次秋に応募し、翌夏から訪れた南洋理工大学では、大きなカルチャーショックを受けたという。「人や事象への評価の仕方、価値の見いだし方、学術的レベル。様々なところで差異を感じ、一度は自信を失いました。寮生活をしていても、近隣諸国を旅しても、感じるのは日本との違いばかりだったんです」戸惑いが重なっていく日々の中、シンガポールで出会ったビジネスパーソンが言った。「イノベーションを起こせるのは、理系だけ」この言葉に、大きな勇気をもらった。「カルチャーショックもありましたが、上や周りを知ることで自分は素直になれました。素直な方が吸収できることも多いですから。育った場所とは違う環境で、新たな出会いがあって、日々自分の価値観を塗り替えるとともに、日本と東北大学の長所を再認識する貴重な経験になっています」


工学部から他分野への応用性の高さを実感。
不安や迷いも今ではすべて自分の糧に。
南洋理工大学の授業は、東北大学を含む日本の教育機関とは異なり、大学のウェブサイトにアップされたレクチャーノートを見ながら受けるスタイル。先進的とは感じたが、阿部さんは教授が黒板に書いたものを自分の手でノートに書き写す方が自分に合っていたことも感じた。また、シンガポールにおいては工学部が実は不人気だという事実にも出会った。「工学部は難しいというイメージがあるようでした。でもだからこそ、自分がやらなければという気持ちは膨らみましたね。そして他の学部から工学部に移籍するケースは少なく、工学部から他分野へは応用が利くということも自分にはプラスでした。主に数字やデータを扱う工学の知識や経験が、どんな世界にも通じているという自信になったからです。これが、イノベーションを起こせるのは理系という意味だったんだとわかりました」少人数制で丁寧な授業が、東北大学の誇るべき特徴だったということにも気づいたそうだ。

世界が50年間辿り着けなかった境地へ。
「誰かが動かないと変わらない」
「希望進路は?」の質問に「まずは東北大学の大学院です」と精悍な顔つき。『核融合による発電』という夢を叶えるため、将来はフランスで進行中の国際熱核融合実験炉ITERのプロジェクトに参加したいと話した。核分裂を用いる現在の原子力発電とは異なり、原理的に暴走の生じない核融合は、世界中の研究者が50年以上研究を続けてきた巨大プロジェクト。この核融合発電を成功させるためには、阿部さんの学ぶプラズマの高度な技術が求められるという。「私が東北大学への進学を決めた直後、高校2年の終わりに東日本大震災は起きました。福島高校に通っていた自分にとって、核融合によるエネルギーの活用は大きな課題なのです。誰かが動かないと変わらない。自分がやるんだという自覚を持って、これからいよいよ深い研究に携わっていきたいです」フランスでのITERプロジェクトの本格的な始動は、ちょうど阿部さんが大学院を卒業する6~7年後を予定。東北大学工学部で磨いた知識と視野の広さで、日本の代表として世界最先端の研究に挑んでくれるに違いない。


東北大学 工学部
情報知能システム総合学科 エネルギーインテリジェンスコース
阿部翔太

2012年、福島県立福島高校普通科を卒業。高校在学中にはケンブリッジ大学での理系ワークショップに参加、海外への視野が広がる。2012年4月、東北大学工学部に入学。同年8月にシンガポール国立大学のサマーキャンプに参加。2013年2月にニューサウスウェールズ大学への短期留学を経て、同年8月より南洋工科大学に留学。留学中、カンボジア、タイ、ベトナムを始めとする東南アジア各国を旅行し現地の文化や生活に触れる。帰国後はプラズマ研究を志望。