世界が認める技術をつくり、
AI研究の最前線を開拓する。
株式会社東芝
研究開発本部 研究開発センター
アナリティクスAIラボラトリー
谷沢昭行
コンピュータに知的能力を授ける。
それがAI研究者の仕事。
その言葉を聞かない日がないほど、“AI(人工知能/Artificial Intelligence)”にいま注目が集まっている。そもそも人工知能という言葉が定義されたのは1956年にまで遡り、先駆的な研究を行ったのはアラン・チューリングなどの数学者だった。科学者たちは、当時、ミサイルの弾道計算など、軍事技術を中心に使われていたコンピュータに、人間のような知的な営みを行わせようとした。以来半世紀以上にわたる研究の成果として、現在は一部の能力において人間を凌駕するAIが誕生するなど、飛躍的な進歩を遂げた。
AI研究の一分野である視覚情報処理技術に関する研究に取り組むのは、株式会社東芝の研究者・谷沢昭行さんだ。


静かな計算機室のなかで、
仲間と研究に没頭した学生時代。
谷沢さんと情報処理分野との初めての接点は、1990年、小学6年生の時のことだ。パソコンが一般家庭まではまだ普及していなかったその頃、谷沢さんの通う小学校にはすでに1台設置されていたという。このパソコンで、256×256ピクセルのキャンバスに16色の色彩を使いデジタルアートを描くことを思いついた谷沢さん。さらにその作品を教育委員会が開催するコンピュータプログラムの作品展に応募してみると、優秀賞の栄誉を得たのだという。「ドット画のような作品でしたが、パソコンで何かを生み出すということがとてもクリエイティブな作業だと感じる、そんな体験でした」。大学では情報処理の分野を専門的に学びたいと考えていた谷沢さんは、兄が東北大学で建築を学んでいたこともあり、東北大学を進路の候補にする。そして、情報処理研究においてもその研究実績が高く評価されていたことから、東北大学工学部への進学を決めた。学部生の時代は、気心の知れた仲間たちと工学部キャンパスのはずれにある計算機室にこもり、研究に没頭する毎日を送ったという。「とても静かな環境で、計算機に向き合えたことが何よりも素敵でした」と当時を振り返る谷沢さん。大学院進学後は、応用数学や物理学系の研究室に所属し、“統計物理学的手法を用いた動画像処理”の研究に取り組んだ。「統計物理学や熱力学を画像処理に適用するためには、どんな工夫が必要かをモチベーションに研究していました。動画像に映る移動体を自動判別するアルゴリズムを、初歩的なニューラルネットワークに実装するなど、先進的な研究も体験することができました」

「世界で使われる技術をつくりたい」
国際標準規格への採用を目標に。
大学院修了後、株式会社東芝への就職という道を選んだのは、画像処理の専門家である東北大学出身者の先輩社員との出会いがきっかけだった。「動画像処理において、国際標準規格レベルの先端研究ができる」という話に心を動かされたという。「世界中のメーカーが、テレビや動画プレーヤー、ソフトウェアなど、ありとあらゆる製品を開発する際に使用するのが『国際標準規格』です。規格としての採用は、汎用性と性能の高い技術であること、そして世界一の技術であることの証であり、そんなスケールの大きな研究に自分も関わってみたいという思いを強く持ちました」。谷沢さんは、東芝での技術開発を通して、国際標準規格への採択という栄誉をすでに実現している。それは、4Kテレビなどの重い映像データをできるだけ軽くして伝送するための映像圧縮技術だ。「この技術では、従来困難だった高精度の『予測』を可能にし、映像情報を大きく圧縮することに成功しました」。仕事のやりがいについて「携わった研究が、エンドユーザーの手で実際に使われること」と語る谷沢さん。「研究者である一方で、日常生活においては私も何らかの製品のユーザーです。どんなに新しい技術であっても、使いたいと思うかはまた別。だからこそ、新しく、広く使われる技術というものは素晴らしいのだ、と私は思います」


株式会社東芝
研究開発本部 研究開発センター
アナリティクスAIラボラトリー
谷沢 昭行

1996年、山梨学院大学付属高等学校卒業。
2000年、東北大学工学部通信工学科を卒業、東北大学大学院情報科学研究科情報基礎科学専攻へ。
2002年、同専攻を修了し、4月より株式会社東芝研究開発センターに入社、画像符号化・画像処理の研究開発に従事。
2017年、同センターにてアナリティクスAIの研究開発に従事、同年、理化学研究所革新知能統合研究センターの客員研究員、現在に至る。平成30年度全国発明表彰にて発明賞を受賞。