世界が認める技術をつくり、
AI研究の最前線を開拓する。
株式会社東芝
研究開発本部 研究開発センター
アナリティクスAIラボラトリー
谷沢昭行
深層ニューラルネットワークのコンパクト化技術を開発、
自動運転等への活用に道をひらく。
「現在のようにAIの技術が大きく注目される日が来ることは正直予想していなかった。AI研究はこれまで二度の『冬の時代』を経験しましたが、今回の第三次ブームはけっして一過性のものに終わることはないでしょう」と谷沢さんは話す。そう考える最大の理由が、AIに人間の学習能力を与えようとする技術「機械学習」の進歩だ。「高度な機械学習によって、視覚情報処理は飛躍的に進歩しました。従来の機械学習では、ある画像の中にいるネコをコンピュータに認識させようとする際、何をもってネコとするか、つまり『ネコの条件』をまず教え込まなければなりませんでした。しかし機械学習の進歩によって、この作業が自動化され、学習の仕組みそのものが刷新されたのです」。
機械学習の進歩を象徴するのが「深層学習(ディープラーニング)」だ。人間の脳の神経細胞の情報伝達の方法から着想され、脳機能の一部をコンピュータ上で再現するための数理モデル「ニューラルネットワーク」を多層化した「深層ニューラルネットワーク(Deep Neural Networks)」によって可能になった新しい機械学習である。
谷沢さんは今後、深層ニューラルネットワークが家電をはじめとするIoTデバイスなど、より私たちの生活に身近な場所に搭載される未来を見据えた研究開発も進めている。それが理化学研究所 革新知能統合研究センター(理研AIP)との共同研究で理論解析を行って実現した「エッジデバイス上で高精度な認識処理を実現する深層ニューラルネットワークのコンパクト化技術」だ。
「従来の深層ニューラルネットワークは、演算能力やメモリ量が限られるエッジデバイス(個別の通信ネットワーク間を接続するデバイス)上では動作させることが困難であるという課題がありました」。谷沢さんは、2017年に開設した理研AIP-東芝連携センターでの共同研究に参加し、2018年、深層ニューラルネットワークによる学習の結果としてもたらされる「パラメータ」を80%削減しながらも、その認識精度を維持することを可能にする技術を開発した。「この技術により、高精度な音声や画像などの認識処理がエッジデバイス上で可能になります。その先には、自動運転向け画像認識システムなどにおける深層ニューラルネットワークの活用に道をひらくことでしょう」


医療技術やIoTデバイス、自動運転…。
AIの活躍の場はますます広がっていく。
膨大なデータをもとに、高い精度で最適解を見つけることができる深層学習などのAI技術。その活躍の場は、医療分野(ゲノム医療・画像診断・医薬品開発等)やスマートスピーカーなどに代表される家庭用IoTデバイス、クルマの自動運転といった分野へと広がっている。今後のAIの展望を谷沢さんは次のように話す。「まずは自動運転でしょう。高性能な深層ニューラルネットワークが自動運転に導入されることで、未来のクルマ社会はより実現が早まるのではないでしょうか。同様に、ドローンなどでも自動化はどんどん進んでいくと思います。また、今後は人間よりもAIの方が高いパフォーマンスを発揮する分野はこの社会において着実に増え、それらの作業はAIが代替していくでしょう」

日本の強みを活かした方法で、
AI研究に立ち向かってほしい。
企業でAIに取り組む研究者には、今後どのような役割が求められていくのだろう? 谷沢さんはまず「企業の持つ課題を、AIを使って考え、解決策を提案できること」を挙げる。そして「世界の動きを把握し、日本ならではの強みを自覚すること」と語る。「AI研究は今、エキサイティングな研究領域の一つと言えるでしょう。AIのコンパクト化という1つの研究分野で世界中の研究者から1か月に数十本もの論文が発表される、最大手のIT企業には数千人規模の研究者がいる、そんな状況の中で、彼らと同じ方法で研究を挑んでも、企業研究としては意味がありません。重要なことは、高度な数理など、日本ならではの強みを生かして戦うことなのです。企業が得意とする実データを用いて新たに発見した現象を、数理解析を得意とする大学の先生方と連携し、理論的に説明できる形で社会応用に繋げる研究を行うというのもその一つでしょう。AI研究には、まだ課題がたくさんあります。たとえば深層ニューラルネットワークがどのようにして最適解を生み出したかは、まだ誰も説明できていません。こうした課題に対し、日本の強みを活かした方法で取り組み、国際標準規格のような世界に貢献できる仕事に挑戦したいと思っています」


株式会社東芝
研究開発本部 研究開発センター
アナリティクスAIラボラトリー
谷沢 昭行

1996年、山梨学院大学付属高等学校卒業。
2000年、東北大学工学部通信工学科を卒業、東北大学大学院情報科学研究科情報基礎科学専攻へ。
2002年、同専攻を修了し、4月より株式会社東芝研究開発センターに入社、画像符号化・画像処理の研究開発に従事。
2017年、同センターにてアナリティクスAIの研究開発に従事、同年、理化学研究所革新知能統合研究センターの客員研究員、現在に至る。平成30年度全国発明表彰にて発明賞を受賞。