東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT
東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

主体的な学びが
選択肢を増やし、
可能性を広げる。

東北大学 工学研究科・工学部
材料科学総合学科3年
増田 息吹

© School of Engineering, Tohoku University

数字を読む力が向上。
チームで事業戦略の立案に
挑戦。

 世界をリードする4つの巨大企業GAFA(Google/Amazon/Facebook/Apple)。その創始者たちの多くが計算機工学などを学んだ理系アタマの持ち主だ。IT系の専門知識と独創的なアイデアをもとに起業した彼らはそれぞれに成功を収め、今では世界を代表する企業のトップとして比類なき存在となっている。英語で“Faculty of technology”または“Faculty of engineering“と表されるように、工学部は、テクノロジーについて専門的に学び社会で活躍するエンジニアを育てることを目的とする。一方、企業のリーダーとしてグローバルな舞台で活躍しようとする時に求められるのは、世界の市場動向を分析し、成功に向けた確固とした戦略を立案、事業に関わるヒト・モノ・カネを的確にマネジメントするといった能力だろう。工学部に学びながら、企業や世界を数字から読み解き、戦略を立てるための力を身に付けたい!そんな学生の声に応える特別講座が東北大学工学部の「国際戦略リーダー講座」である。企業の健康診断書とも言われる財務諸表の基礎や国際情勢について学習するほか、企業の経営層や若手社員にも学びながら、企業分析や事業提案に向けた調査や討論に取り組むのが主な内容となっている。
 工学部材料科学総合学科3年の増田息吹さんは、この講座の受講生の一人。「工学部で学ぶ数学や物理、化学以外のことにも視野を広げたい」という思いから、受講を決めたという。「参加する学生には、グローバルに活躍したいという思いが共通していると思います。これまでの学びで数字を読む力はかなり向上したと思いますが、大切なのは、企業が何を考え、どういうお金の動かし方で事業戦略を行っているかを自分なりに考察できるようになること。過去の情報である財務諸表から、10年先20年先の動きをいかに予測するかがこれからの課題です」
 講座では、『ソフトバンクがアマゾンを事業規模で追い越すための戦略』をテーマに、チームでの検討にも取り組んだ。増田さんのチームでは、ソフトバンクの本業である通信業の分野での事業戦略を検討。車や飛行機といった移動手段のすべてがデータでつながるMaaS(Mobility as a service)という考え方をベースに、ソフトバンクが中心となって日本でのMaaSを牽引し実現していくための戦略を立案した。「僕たちのチーム3名のうち1名は経済学部の学生でした。工学部の2人には、ロジックに隙がないかを細かく分析する、ロジックにこだわる性格というか思考回路があります。一方経済学部の学生は、数字を追うだけでなく、倫理的な問題や概念的な問題、社会貢献といったことをざっくり考えるのが得意。細かいところを詰め過ぎるあまり議論が停滞してしまった時、経済学部の学生から『一度これを無視してざっくりやってみよう』と言われ、前に進むということも。そうした経験から、自分に足りないところは他の人の力も借りながらチームとして動いていく、役割分担のためのスキルを学ぶことができました。このほかにも、情報収集スキルやチーム内で情報を共有する際のより伝わりやすい話し方など、多くのことを学ぶことができました」

女川町でのインターンシップで
社会貢献の大切さを知った。

 

 国際戦略リーダー講座に参加したことで、増田さんにはもう一つ大きな出会いがあった。それは、宮城県女川町に本拠を置く株式会社鮮冷。同社のマーケティング担当者が講座の社会人アドバイザーの一人だったことがきっかけだった。「アドバイザーの多くは工学部につながるメーカーや東京の大手企業の皆さん。その中で水産食品の製造販売を展開する鮮冷さんは異色でした。6次産業を掲げ、生産から加工、レストランなどへの流通まで、モノの流れ全体を自分たちの手で管理してやっている点に魅力を感じ、インターンシップ(就業体験)をさせていただきました」
 約1か月のインターンシップでは、生産者とともに船に乗ったり、加工場でベトナム人の技能実習生と一緒に働いたり、さらにオフィスでマーケティングや品質管理について体系的に学ぶことができた。また、同社がすでに取得している世界レベルの高度な衛生規格認証をさらに上のレベルに持っていくにはどうすればいいか、一緒に考えていく機会を持つことができたという。「インターンシップでの最大の収穫は、自分の中にある自己中心的な考え方に気付いたことです。東日本大震災からの復興途上にある町の姿を目の当たりにし、また、全国から起業家を集めスタートアップを支援するという女川町の取り組みも自分には衝撃でした。インターンシップ終了後、地元の方と交流する機会があり、『お金を稼ぐために起業や事業を行っているのではない。あくまで復興の手助けをするためにやっている』という話を聞いた時、大学での学びを生かしてお金を稼ぎ安定した生活を送りたいと考えていた自分に気付かされました。これじゃダメだ。お金を稼ぐというのはあくまで二次的なことで、何より大切なのは社会貢献なのではないか、そう考えるようになりました」

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経験の深化とともに
将来像も変化。
環境負荷を軽減する
材料開発も視野に。

 高校生の頃興味があったのは航空機だったという増田さん。おじの一人が民間航空会社のパイロットで、彼の話す海外や飛行機の話題に刺激を受け、漠然とだが将来は航空関連の仕事に携わりたいと考えるようになった。「パイロットという職業も選択肢の一つでしたが、飛行機の設計など、飛行機の開発に携わるということにも興味がありました。おじの乗っている航空機がボーイング787という最新鋭機で、従来の飛行機との大きな違いは材料にあるということを知り、材料科学という分野にも興味を持つようになりました」
 そこで材料の分野で最先端の研究をしているのはどこの大学かを調べてみると、最初に出てきたのが東北大学だった。「この大学なら何らかの形で航空機の材料について勉強できるんじゃないか。それが東北大学を選んだ理由です。航空機は、耐熱材料やリチウムイオン電池などいろいろな先端技術の結晶であり、材料科学総合学科ならどの研究室に所属しても何かしら航空機につながる部分はあると考えました」
 学部卒業後は大学院への進学を考えているという増田さんだが、社会貢献を強く意識するようになったいま、将来の進路をどのように考えているのだろう。「航空関連以外の選択肢として、環境負荷を軽減するような材料の開発について研究してみたいとも考えるようになりました。本学の大学院には環境科学研究科があり、その先進社会環境学専攻には、材料や資源の持続可能な循環システムの構築を目指し研究を進めている先生がいます。その先生のゼミに自主的に参加し、環境科学という分野についてすでに勉強を始めました。また、リンの供給過剰と資源枯渇が環境の分野でホットな話題の一つとなっていることから、鉄鋼製錬を中心に研究を進める工学研究科の研究室で、鉄鋼精錬スラグからのリン回収について研究するというのも4年次以降の進路の一つと考えています。さらに先の話になりますが、環境負荷や労働環境、人権の問題といった社会的責任について考えながら事業投資を行うESG投資にいつか関わってみたいという夢も持っています」

学ぼうとする意欲に応える
様々なオプションが
ここにはある。

 工学部の3年生の場合、講義以外にも実験のレポート作成などがあり、かなり忙しい日々を送ることになる。「それに加えて国際戦略リーダー講座ですから、時間的には確かに厳しい面もある」と話す増田さん。「人間力を高めるというのをモチベーションに、そこはしっかり両立させてきました。サークルに所属していない分空き時間はそれなりにあるので、そうした時間が僕にとっては自己投資のための時間。要はタイムマネジメントができるかどうかだと思います」
 登山や旅行が趣味という増田さんは、春休みや夏休みなどの長期休暇にも様々なことにチャレンジしてきた。1年次の春休みには大学のSAPというプログラムを活用しイギリス・シェフィールドで1か月の語学研修に参加、翌春には起業の仕方や事業戦略について学ぶフィンランド研修、その年の夏休みには友人とタイ旅行、帰国後さらに原付バイクで2週間の北海道旅行へ。さらに3年生の夏休みには、ドイツ人留学生とともに1か月半かけてヨーロッパを登山してまわったという。「高校時代はカヌー部の活動が忙しく、学校の勉強以外には自分の時間があまり取れなかった。その満たされなかった部分を埋めるため、大学では様々なことに挑戦し学びを深めたいと考えていました。東北大学では、学生が学ぼうとすればするほどいろいろなオプションが用意されており、そうしたサポートを利用することで多くの経験を積み重ねることができました。大切なのは、主体的に学び自己投資を続けること。主体的な学びがあればこそ、選択肢は増え、可能性も広がっていくのです」