東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT
東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

よりよい都市をめざし、仙台市の未来の地図を描く。 よりよい都市をめざし、
仙台市の未来の地図を描く。

仙台市 都市整備局
計画部 都市計画課 地域計画係
技師
大塩 美里 REPORT #28

© School of Engineering, Tohoku University

東日本大震災での
経験から、
仙台市の技術職に興味。

 「拠点都市としての利便性の高さとともに、まちの中心部でも自然が多く溶け込んでいる、その過ごしやすさが好き」と話すのは、東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻を修了後、仙台市職員となった大塩美里さんだ。大塩さんが所属するのは、都市整備局計画部都市計画課。仙台市を安心・安全で快適に生活できるよりよい都市にするため、計画を立案し、他部署等との調整を図っていく部署だ。「私たちの仕事は、仙台市の未来の地図を形作っていくものです。しかも、そこで描いた形は長い年月にわたり痕跡として残っていく。市民の財産や人の流れを変えてしまうこともある、とても責任の重い仕事です。市民の立場でのよりよい都市の実現には、行政の立場でさまざまな視点から影響を考察し最善をつくす必要がある。公民連携のもと、民間ならではの発想やパワーも生かしながら、いろいろな立場の人がみんな笑顔で輝いている、そんなまちにできたらと思います」。

 大塩さんが行政職という道を選んだきっかけは、大学3年次の春休みに経験した東日本大震災にあるという。配属が決まっていた建築構造系の研究室から招集がかかり、大塩さんたち学生も被害データの収集や建物の被災度区分判定の作業に携わった。「被災度区分判定では、1日に学校3、4棟を調べました。短期間で4kgほど体重が減ってしまうほどハードな作業でしたが、その時、仙台市の職員と大学の研究者が被災状況について話し合う姿を見て、仙台市役所に興味を持つようになりました。仙台市の技術職として入庁したのは、大好きなまち仙台を創り、守っていくことがきっとできると考えたからです」。

金属繊維を
混入することで、
コンクリートの
性質を変える。

 大塩さんは、宮城工業高等専門学校(現・仙台高等専門学校)の建築学科を卒業後、東北大学工学部建築・社会環境工学科の3年次に編入学、さらに東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻へと進んだ。建築学には、建築構造や建築デザイン、建築史、さらに環境工学や建築設備など多岐にわたる分野があるが、大塩さんがその経歴の中で一貫して取り組んできたのが建築材料、とりわけコンクリート(モルタル)に関する研究だ。「高専時代の実験の授業でモルタルを作った際、同じ人が同じタイミングで、同じ混入量で作ったにもかかわらず、強度がそれぞれ異なるという点に面白さを感じました。建築関係の職に就いている父が現場で建築材料を扱う姿を幼いころから見ていたということも影響し、潜在的に興味があったのかもしれません。 建築材料についてもっと深く学んでみたいと考えていた時、建築材料の分野で世界的に活躍されている先生が東北大学工学部にいらっしゃるということを知り、編入学試験の受験先を東北大学一本に絞りました」。

 工学部での研究室配属後、大塩さんは、繊維を混入したモルタルの実験研究に本格的に取り組んだ。それは、強いけれど脆性的(もろい)というコンクリートの従来のイメージを、金属繊維を混入することで強く靭性的(粘り強い)な性質に変えることをめざすものだった。またこの研究には、水と酸素があると鉄筋は錆びてしまうというそれまでの常識を抑制することにつながる、新たな発見の可能性もあったという。「建物の寿命を支えるのは、なんと言っても建築材料です。材料は、人間で言えば足のようなもの。よりよい材料が開発できれば、その材料が建物空間の構成自体を変えてしまうかもしれない。そんな期待を胸に、高専から大学院修了までの9年間、研究に取り組み続けることができました」。

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編入学で得た
最大の財産は、
友人、そして仲間との絆。

 編入学試験に向けた準備期間は「それまでの人生で一番ハードな時間だった」と振り返る大塩さん。高専では卒業研究のほかに卒業設計もあり、そのために多くの時間を割かなければならず、学校が終わった後の時間を受験準備にあてたという。「東北大学工学部の編入学試験は、数学と物理のレベルが相当高いと言われていました。高専での勉強で基礎の部分はしっかりできてはいたものの、応用問題にいかに対応するかが課題でした。他大学のものも含め過去問への挑戦、そして、過去に編入学をめざした先輩、そして先生方からアドバイスやご指導をいただき、無事合格することができました」。

 授業に実験にとかなり忙しかった高専を卒業し晴れて大学生となった大塩さんには、「大学生らしい生活を楽しんでみたい」という気持ちもあったという。しかし3年次編入学生を待ち受けていたのは、一般教養以外の単位取得に追われる日々だった。「高専で取得した単位について振り替えできる数に上限が設けられていたため、3年次には、月曜から金曜まで講義があり、1週間にレポート11本というハードなこともありました。それでも、新しくできた大学の友人たちと一緒にレポートを仕上げたあの時間は、楽しかった一番の思い出として、私の中に今も色濃く刻まれています」。

 編入学したことで得られた最大の財産は友人、と話す大塩さん。「卒業後も変わらず交流が続く親友と出会えたのが東北大学です。また、屋外での作業や実験で、特に夏や冬は大変な時もありましたが、研究室メンバーの仲が良く、明るく支え合えたこと、協力し合えたこと、苦楽を共にできたことで研究を続けることができました」。

学びを止めず、
果敢にチャレンジ
し続けること。

 都市計画という仕事は、高専、大学、大学院で学び研究した建築材料と直接的な関わりはないという。一方で、現在の仕事に役立っているのは、自分にとって最大の興味対象であったコンクリート以外のことに対しても、それが未知の分野である限り何らかの面白さを発見することができる、そんな自身の性格だという。「行政の仕事では、新しく何かをつくる、新たに何かを決定するという場合、たくさんの部署の専門性が絡み合っているため、さまざまな法律や条例等を理解し、読み解き、そして再構築していくことが必要です。部署ごとに拠り所とする法令や運用についての考え方などが異なるため、部署間での調整がとても難しい場合も多くあります。この点では、日々悩み考え、試行錯誤しているところです。入庁当初抱いていた『大切な人たちが、仙台をずっと好きでいてくれるように、笑顔で生活しやすい環境をつくっていく』ことを目標に、学びを止めず、信頼する上司や同僚の職員たちとともにチャレンジを続けていきたいと思います」。

 若手職員であっても、それぞれが考える魅力ある仙台像を物怖じせずに発信し、果敢に業務に取り組んでいくことが大事だという大塩さん。プロフェッショナルとしての経験を積み重ねながら、マルチプレーヤーとしても成長していきたいと話す大塩さんは、都市計画という仙台市の未来地図に、これからどんな線を描き、どんな色を着けていくことになるのだろう。