研究者として、母として、守りたいもの。
変化し続ける「3万5千km」の研究。
東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 水環境デザインコース 准教授
東北大学 災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 災害ポテンシャル研究分野
准教授 有働恵子
研究の舞台は「3万5千km」
日本を縁取る世界有数の海岸線を守りたい。
東日本大震災で目の当たりにした、日本が海に囲まれている島だという事実。そして、海岸での災害対策の重要性。日本をぐるりと取り囲む約3万5千kmもの海岸線は世界の中でも非常に長く、海の美しさと脅威を教えてくれている。東北大学工学部准教授の有働恵子さんは、世界有数の海岸線を持つ日本でも知る人の少ない「海岸工学」を究める研究者だ。「海岸工学は、海岸での災害を防ぎ人を守る知見を構築するもの。日本の長い海岸線の中でも特に脆弱な場所を予測し、台風や津波といった災害時に役立てることを目標としています」力強く語るその背景には、大学時代の恩師との出会い、そして自ら子どもを育てる“親”としての思いがある。海岸工学が幼い頃からの夢というわけではなかった。しかし、自らの人生を歩む中で、この研究の必要性と自分自身の使命を自覚していったのだ。


やりたいことが見つからなかった大学時代、
海岸工学を専攻する教授との出会い。
もともと物事を突き詰めて考えることが好きな子どもだったと、有働准教授は振り返る。「つまり、研究が好きだったんですね。高校では医学部や理学部を目指そうかと考えたこともありました。でも、学部適性診断で工学部と出て、素直に工学部に進んだんです」周囲に医学部、理学部へ進学する友人が多い中、自分らしい道を選んだ。入学した大学ではなんとなく応用化学を専攻しようと思っていたが、絶対にやりたいと思うことはなかなか見つからなかった。そんな時に出会ったのが、海岸工学を専門とする教授だった。「本質的に同じであったとしても、多くの人が納得できる方法を考えなければいけない。その先生はそう言ったんです。そしてそれは、特に土木分野に必要だとも言いました。その講義の内容は極端な話ではあったのですが、この人は核心を衝いていると感じて、自分も海岸工学をやろうって思えたんですよね。私の周りにはいないタイプの人でしたから。今思えば、知識はもちろん情熱もすごい人だったんだと思います」

世界トップクラスの研究所への就職。
毎日繰り返す観測の日々のすべてが糧に変わった。
大学院を卒業後、国土交通省所管の研究所に就職した。就職先の研究所は、世界でもトップクラスのデータを蓄積している施設。日本はもちろん海外からのデータ要請も多い研究環境で、自らも日々の観測に携わり、貴重な体験ができたという。「とにかく毎日毎日砂浜を観測する日々でした。雨の日も、雪の日も、台風の日も。自然のすごさを身をもって体感しました。今考えると、自然災害が発生した時、実際の海岸ではどのようなことが起こっておるのかをリアルに想像できる素養になったのだと思います」研究所での勤務は3年間で終わった。助手(現在の助教)として、東北大学に勤務することになったからだ。研究と教育に充実した日々。働く中で結婚し、双子を妊娠していることがわかり、早めの産休をとることも決まった。研究者として、女性として、母としての人生を歩んでいた。しかし、妊娠5ヵ月の時、東日本大震災が起きた。


東北大学 工学部 建築・社会環境工学科 水環境デザインコース 准教授
東北大学 災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 災害ポテンシャル研究分野
准教授 有働恵子

1998年、筑波大学第三学群基礎工学類卒業。2003年、筑波大学大学院工学研究科構造工学専攻において博士課程修了。独立行政法人港湾空港技術研究所海洋水工部漂砂研究室研究官を経て、2006年東北大学大学院災害制御研究センターへ。現在の研究課題は「海岸の地形変化に関する研究」。2001年第56回土木学会年次学術講演会優秀講演者表彰、2008年建設工学奨励金受賞。