東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT
東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

より楽しく充実した東北大学をめざし、
学生主導のイノベーションを。

東北大学 工学部
化学・バイオ工学科
3年
青山 敦 REPORT #31

© School of Engineering, Tohoku University

デザイン思考を武器に、
東北大学に
イノベーションを起こす。

 2021年10月、工学部生3名を含む4名の学生がアメリカ・スタンフォード大学からスタンフォード大学・ユニバーシティ・イノベーションフェロー(UIF)の称号を授与された。UIFは、スタンフォード大学デザイン学部(d.school)が提供するプログラムで、学生がそれぞれの大学でどんなイノベーションを起こすことができるのか、学びながら考え、そして実行に移していくというもの。その核心にあるのが、問題解決のためのプロセス=デザイン思考だ。

 「デザイン思考は、自分が最も得意とするコミュニケーションの部分をフルに活かすことができる」。そう話すのは、UIFプログラムを修了しフェローの称号を得た一人、工学部化学・バイオ工学科3年の青山敦さんだ。「デザイン思考には、共感(Empathy)、問題定義(Define)、創造(Ideate)、プロトタイプ(Prototype)、テスト(Test)の5つのプロセスがあります。このプロセスでは、ブレインストーミング(問題点の抽出やアイデア出しのため、複数が集まり自由に意見を述べ合う集団発想法。通称:ブレスト)がツールとして随所に入ってきます。ブレストを円滑に、そして充実したものとするため、話をどう持っていくか、どうすればアイデアをうまく引き出せるか、そのための工夫がとても楽しいです」。

 多種多様なアイデアを得るため、他者のアイデアを批判・評価しないという原則がブレストにはある。しかし、これが案外難しいと青山さんは言う。「日本人は批判的思考が好きです。海外の場合、批判的思考には反対も賛成も含みますが、日本では反対ベースの批判になってしまいがち。どうすれば賛成ベースでディスカッションを進められるのか、どうすればブレストが盛り上がるのか、デザイン思考について学んだことで、そのプロセスを意識するようになりました。今は、質より量でアイデアを出していこうとずっと言い続けています」。

UIFが滑走路となり、
離陸するまでの
サポートをしよう。

 青山さんらUIFメンバーは、東北大学が抱える課題や学生・教員が持つ潜在ニーズの発掘、大学改革のためのプロジェクトの企画・立案に取り組むトレーニングを通して、デザイン思考のスキルを習得。トレーニング終了後には、学生主導で大学をより楽しく充実したものにするため活動する団体TIDE(Tohoku University Innovation, Design and Entrepreneurship club)を設立、工学研究科総合研究棟(青葉山キャンパス)に活動の拠点となる「I-River」を設けた。

 「東北大学には何が足りないのかをメンバー4人で話し合い、そこで出たのが、学生ベンチャーが少ない、自分から行動する学生が少ないという課題でした。しかしその一方で、課題解決の手法を学ぶ1年生向けの授業は毎年100人を超える学生が受講している。つまり、何かやってやろうという意識の学生は相当数いるわけです」。では何が欠けているのか? さらに議論を深めていく中で見えてきたのは「何かやってみたいという思いはあるがまだ少し迷っている、そうした学生向けのサポートが少ない」という課題だったという。それに加え、青山さんはもう一つの課題を指摘する。「それは、何かやってみようと考える学生たちのコミュニティーが閉鎖的になってしまっているということでした。こうした課題を解決するために、私たちUIFが滑走路となり、離陸するまでのサポートをしよう。アイデアを出すためのサポート、人と人をつなぐためのサポート。そのための機会として出てきたアイデアが、東北大学イノベーションフェスティバルの開催でした」。

 TIDE主催の東北大学イノベーションフェスティバルは、東北大学基金が運営する学生チャレンジクラウドファンディング「ともに・プログラム(ともプロ!)」の採択プロジェクトの一つとして、個人31名から50万円を超える寄附を集めた。フェスティバルでは、アントレプレナーシップ(企業家精神)の認知度を調べる1・2年生対象のアンケート調査を手始めに、「東北大学キャンパスで時間を過ごしたくなる」をテーマにアイデアを募集するアイデアパレード、応募した学生を対象にしたデザイン思考のワークショップなどを開催。応募アイデアの中で「面白さ」や「新鮮さ」という観点から人気の高かったアイデアについては、TIDEが実現に向け最後までサポートを行っていくという。「私たちがめざすのは、東北大学内に“ゼロからイチを生み出す”文化を根付かせること。私たちに続き、2022年度も4人の学生がUIFにチャレンジしています。デザイン思考を身に付けた仲間がさらに増え、彼らとともに何か新しいことができたらいいなと考えています」。

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自分しかやっていない
と思えるワクワク感が
この活動にはある。

 青山さんが化学・バイオ工学科を進学先に選んだのは、炭素系材料への興味からだったという。「小学生の頃、乗り物好きの父に連れられて飛行場に行った時、炭素繊維強化プラスチックなどの複合材料を機体の50%に使用したボーイング787を見ました。これまでアルミで作られていたものがプラスチックでできる、という点が何より驚きで、しかもそれは日本の企業で製造されたものだという。それ以来、将来は炭素系の分野を勉強してみたいと考えるようになりました」。

 そしてもう一つ、大学入学前から関心を持っていたのが起業、つまりベンチャー企業の設立だ。「大学在学中に起業し、在学中にその会社を売却してしまおう」と漠然と考えていたという青山さん。そんな青山さんが大学に期待していたのが、アントレプレナーシップについての学びだった。「入学してからわかったことですが、東北大学はそうした面でも日本で有数の大学の一つだったのです。1年生対象のファシリテーション(会議などのグループ活動を円滑に進めるためのサポート技法)の授業、企業の世界戦略を考えることを通してグローバルなものの見方、数字を紐解く力や発想力の獲得をめざす“国際戦略講座”、さらにUIFプログラムと、工学部はもちろん大学全体としても充実したコンテンツが数多く用意されていました。そうした学びの到達点が、UIFやTIDEの現在の活動です。現在、起業には至っていませんが、それとは異なる面白さ、誰もやっていない、自分しかやっていないと思えるワクワク感がこの活動にはあります」。

 新たに生み出した技術を社会で実際に活かすには何が必要か。「そのことを強く意識していたからこそ工学部を選んだ」という青山さん。専門とする化学工学の学びに、これまで、そしてこれからの経験はどう活かされていくのだろう。「化学工学はプラントをつくるための学問でもあります。研究室での手元サイズから少しずつスケールアップし、最終的にプラントとして完成させる、その過程で生じるさまざまな不都合をクリアしようとする時、課題解決のためのさまざまな経験がきっとプラスになるはずです。研究の背景にあるものは何か、研究の先にはどんな可能性が広がっているのかなど、前後の過程も含め研究全体を見る際にも、これまでの経験を活かしていきたいと考えています」。

挑戦の結果として、
失敗をすべて網羅
できたら幸せだ。

 工学部卒業後は大学院への進学を考えている青山さん。その先の将来については3つのプランがあるという。「物事を考える時、私は、社会、家族、個人の3つの軸から考えるようにしています。社会という軸では、化学関連で起業し、企業経営をしてみたい。ボーイング787の機体材料をつくった日本企業に入り経営に参画するというのも将来像の一つです。家族の軸では、自分の子どもを育てたい。そして、個人の軸で考えているのが教育という仕事。難しいことを別のことに例えながらわかりやすく伝えるのが得意なので、教育に向いているのではないかと。そのために、中学・高校の教員免許状の取得に向けた勉強も続けています」。

 2022年9月、東北大学に関連する1本のニュースがテレビに流れた。それは、大学の広報活動に若者の視点を取り入れようと学生3人を広報のスタッフとして任命したというもの。3人のうちの1人が青山さんだった。「SNSなどを毎日更新し、東北大学の学生がどういう生活を送っているのか、少しでも興味を持ってもらえるような発信をしていきたい」とインタビューに答えていた青山さん。次々に活動の場を広げていく青山さんの行動力の源はどこにあるのだろう。「学生の間は失敗し放題だと思っています。僕らは何をやっても、どんな失敗をしても、叱られることはあっても、最終的に責任問題にまで発展することはそうありません。だから、学生のうちにできる失敗はすべてしておきたい。失敗という言葉にはマイナスイメージがあるけれど、やってみたいからやってみるということができるのが学生時代なのではないでしょうか。東北大学の先生は、挑戦することに対してはすべてウェルカムという方が多い。大切なのは、挑戦すること。その結果として、失敗をすべて網羅できたら幸せだなと思います」。