
過酷な環境下で使用される
航空機・エネルギー関連の
鋼材製造を担当。
国内・国外の都市間を結ぶ移動手段として欠かすことのできない航空機。そのジェットエンジンの燃焼ガス温度は1,500〜1,600℃、回転数は毎分10,000回転を超える。私たちの暮らしを支える発電所。そのガスタービンもまた、千数百℃の高温と毎分数千〜数万の高速回転で稼働している。こうした過酷な環境下で使用される金属製部品には、当然、厳しい製品規格と高い安全性が求められることになる。
創業以来100有余年、その高い技術力で、航空・エネルギーをはじめとする多くの産業分野に製品を提供し続けてきた大同特殊鋼株式会社。同社の渋川工場(群馬県渋川市)で製造現場の最前線に立ち続ける一人の女性エンジニアがいる。東北大学工学部材料科学総合学科、東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻出身の野口仁美さんだ。
野口さんは2019年4月の入社以来4年半、同工場の製鋼室の一員として、溶解工程に関する現場への指示、製造コストの低減や現場の安全性向上などの仕事に取り組んできた。「溶解速度を安定させたいのにどうしても変動が出てしまう、出来上がった製品がお客様から求められている規格を満たしていないといったときに、生産技術室や品質保証室など、他の部署の人たちと打ち合わせしながら最適な溶解条件を見つけ、現場に指示を出すというのが製鋼室の重要な仕事の一つ」と野口さんは話す。
渋川工場は、鉄スクラップから鋼材を製造するEAF(アーク炉)の他、厳選された原料を真空下で溶解・精錬するVIM(真空誘導炉)、よりクリーンな鋼塊を製造するため不活性ガス下で再溶解するESR(エレクトロスラグ再溶解炉)、真空精錬効果によりガス成分の低いクリーンな鋼塊を製造するVAR(真空アーク再溶解炉)など、製鋼・特殊溶解のための多種多様な炉を備えている。その中で、野口さんが主に担当してきたのが、VIM、ESR、VARだ。「溶解工程で一般的なのが、鉄鉱石から鉄をつくる高炉、そして、アーク放電の熱によってスクラップを溶解するアーク炉です。さらに品質を高めようとする場合、真空下での溶解や不活性雰囲気下での鋼塊の製造が必要になります。そのために、一度溶解したものをさらに2回目、3回目と繰り返し溶解する再溶解のための設備がESRやVAR。航空機のジェットエンジンシャフトや発電所のタービンディスクなど、高い信頼性が求められる製品に直結する鋼材づくりだけに、大きなやりがいを感じています」。