
卵型粒子の中に
閉じ込めた微粒子が
電気的作用で動くことを
世界で初めて発見。
リビングの壁の色を、気分に合わせて「今日は緑」「今日は赤」というように、スイッチ一つで自在に変えることができたら…。そんな未来を思い描きながら微粒子の研究に取り組む若手研究者がいる。東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の渡部花奈子助教である。
渡部助教の研究テーマは、微粒子やナノ粒子を用いた材料の開発。光学特性や触媒特性、センシング特性などさまざまな特性を示すものの、不安定で扱いにくいナノメートルスケールの微粒子を、安定で扱いやすい材料に変えるための研究を続けてきた。「水の中に入れた微粒子に塩をひと振りすると、微粒子同士が合一し、塊になって落ちてきてしまうということが起こります。熱などの外力をかけても同じことが起こるため、その不安定さから『実用化が難しい未来材料』という言われ方もしていた」と話す渡部助教。そんな彼女が注目したのが、卵のような形の微粒子(卵型粒子)だった。「卵の形をしていれば、外側の殻がバリアになって、黄身に相当する微粒子を保護できるのではないか。卵型粒子自体は以前からあったものですが、形や大きさなどがバラバラで、制御性がとても悪かった。微粒子の世界では、機能の均一化や安定性を確保する上で、形や大きさが揃っているということがとても重要なのです」。
そこで渡部助教が最初に取り組んだのが、均一で安定した卵型粒子の作り方の確立。東北大学工学部化学・バイオ工学科の4年生の時のことだ。修士課程に進み、卵型粒子の研究を続けた渡部助教は、その研究の中で新たな発見をする。それは、卵型粒子の集合体に電気などの外的な刺激を与えると、殻の中に閉じ込めた微粒子の運動や配置が変化するというものだった。「一つの材料から得られる特性は一つに限定されるというのが一般的なのですが、卵型粒子の集合体を使えば、与える刺激の種類や強弱によってさまざまな特性が得られるのではないか」。そう考えた渡部助教は、電気をかけるとなぜ微粒子の運動が変化するのか、その物理の解明にチャレンジしていくことになる。