「ホンマか!?」から
光の研究の道へ。
東北大学大学院工学研究科電子工学専攻でフォトニックデバイス工学研究室を率いるのが、2023年9月に本学に着任した北村恭子教授である。研究室名にあるフォトニックとは光のこと。北村教授は、フォトニック結晶と呼ばれる構造体を主な研究対象として、サイエンスとエンジニアリングの両面から研究開発に取り組んでいる。2000年に日本の研究者が世界に先駆けて作製に成功したフォトニック結晶は、光の波長と同程度の数百nm(ナノメートル/10億分の1メートル)の周期で半導体ナノ構造が規則正しく並んでいる人工の構造体で、一定の周波数の光を結晶内への侵入を許さないという特徴的な性質をもつ。侵入を許さない周波数領域(フォトニックバンドギャップ)を上手に設計したり、結晶の規則的な構造に意図的な乱れ(構造欠陥)を導入したりすることで、光を自在にコントロールすることが可能になることから、光メモリや光スイッチといった光回路デバイス、さらには量子コンピュータ等の量子情報処理や通信への応用が期待されている。
京都大学工学部工業化学科出身の北村教授にとって、大学院では半導体の作製に関わる分野を専門とすることも選択肢の一つだったという。そんな北村教授を光デバイス研究の道へ導いたのが、ある講演で耳にした「半導体に周期的に穴を開けていくと、自由自在に光が操れる」という話だった。「半導体の基板に電子線を使ってパターンを作り、プラズマでナノレベルの穴を開けていく。すると、それだけで光が自在にコントロールできるという話で、『ホンマか!?』『そんなことできるわけない』という気持ちも正直なところありました。それがフォトニック結晶との出会いで、本当にそれができるのなら面白い、実際に研究してみようと考えました」。
この時の講演者が、その後指導を受けることになる京都大学工学研究科電子工学専攻の野田進教授だった。北村教授は、野田教授の研究室でフォトニック結晶の研究に注力、博士の学位を取得後、さらに京都工芸繊維大学電気電子工学系へと研究拠点を移し、フォトニック結晶を用いてレーザービームをデザインする技術の開発などに取り組んできた。