
地域のローテックで
「木のまち」の
シンボルをつくる。
福島県の南西部に位置する南会津町。町の面積の9割以上を森林が占め、かつての基幹産業は林業、1950年代には東北地方最大の広葉樹材の集出荷基地だったという。現在の木材生産量は、ピークだった1950年代の1割程度まで激減しているが、「木の町」復活に向け、さまざまな取り組みも始まっている。その一つが、長らく中断していた「林業祭」の再開だ。
そのきっかけとなったのが、2022年4月にオープンした「みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション きとね」(以下、「きとね」)である。「きとね」は、構造材や内装材、フローリング、家具などに、地元の森林資源と加工技術を最大限に活用、設計も南会津町に拠点を置く株式会社はりゅうウッドスタジオが担当した。
同社で、「きとね」の設計をした滑田崇志さんと斉藤光さんは、ともに東北大学工学部建築学科(土木工学科と統合し、建築・社会環境工学科へと改組)を卒業、東北大学大学院工学研究科修士課程を修了した後、はりゅうウッドスタジオの一員となった。「きとね」の設計にあたって大切にした思いを、2人は次のように語る。
「思想としては、ローテックで建てられる建築。地元の大工さんたちでつくれるようにしようということを突き詰めました。でも、つくりやすさだけを追求すると、大工さんたちが面白がってくれない。ちょっと頑張ればできるかなというところで最大限のジャンプをしてもらう、そんな設計を考えました」(滑田)
「大切にしたのは、ゆるがない骨格をつくるということです。南会津の人たちが誇りに思えるような、建築の骨格がシンプルに浮かび上がる建築にしたいと思いました。南会津という土地は小さなコミュニティーですから、職人や木材加工者さんたちの顔が見えます。建築という行為を通して、発注者を含め、川上から川下まで共同体の中でシンボルとなる形をつくりたいと思いました」(斉藤)
「きとね」は、2024年に日本建築学会の作品選奨を受賞した。講評は、次のように述べる。「合理的に木材の強度やつくり方を検討しながら、その使用量を最小限にしなくてよいという点を、合理から外していることだ。この『大らかな合理性』によって、これまでにない架構形式を生み出している。それは、地元林業の活性化にもつながるだろう。…この木造空間は、南会津に特有の個別性を持ちながら、他の地域でも使えるような普遍性を見据えている。…これからも、南会津という地域から、世界に臨むようなチャレンジを期待したい」(一部抜粋)。
「きとねの一室空間は、縦ログや重ね梁による架構により、ゆるやかに分節されています。将来、建物の用途が変わってしまうことや、改修、修繕を行うということは十分あり得ること。仮にそうなっても成立し得る、いかようにも使えるような空間にすべきではないかと考え、設計に反映させました。『大らかな合理性』をもちながら木造を考えることで、結果として建築が長く生き延びていくことにつながることに気づかされました」(滑田)