東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT
東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

半導体による新たな放射線センサーを開発。
六ヶ所村から世界をめざす。

東北大学 大学院工学研究科
量子エネルギー工学専攻
教授
人見 啓太朗 REPORT #39

© School of Engineering, Tohoku University

原子力研究、教育、
地域産業振興の拠点として。

青森県東部、下北半島の付け根に位置する六ヶ所村は、再処理工場をはじめとする原子力関連施設、国家石油備蓄基地、太平洋沿岸部の地の利を活かした大規模風力発電施設などが立地する、日本のエネルギーにとって要衝ともいえる地域である。

2010年、この地で活動を開始したのが、のちに工学研究科量子エネルギー工学専攻六ヶ所村分室へと発展する東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター六ヶ所村分室だ。「この分室には、原子力研究、教育、地域産業振興という3つのミッションがある」と話すのは、開所当初からこの地に常駐し、分室とともに歩みを続けてきた人見啓太朗教授である。分室には、高レベル放射性廃液に含まれる放射性同位元素の高度分離技術に取り組む「核燃料科学分野」と、分離して得られた放射性同位元素を工学から医学までの幅広い分野に応用する高度利用技術の開発に取り組む「放射線高度利用分野」の2つの研究室が設けられ、さらに、近隣の原子力関連施設等から社会人大学院生を受け入れ、活発な教育・研究活動が展開されている。

人見教授の現在の活動の拠点は、2017年に開設された青森県量子科学センター(QSC)にある。「QSCには、加速した陽子ビームを実験装置へ供給することのできるサイクロトロン(円形加速器)をはじめ、工学や医学、農学といった分野への展開が可能な研究設備が整っています。研究環境という点では、仙台の青葉山キャンパスにいるのと遜色はありません。六ヶ所村には、原子燃料の再処理工場のほか、核融合エネルギーに取り組む研究所などもあり、研究に必要な材料や備品が手に入りやすいというメリットもある」と話す人見教授。「そして何より、都市部のような喧騒が少ない。その分、集中して研究に取り組めるということはあると思います」。

QSCには宿泊設備も設けられており、国外からも多くの研究者がやってくるという。「アメリカ・ミシガン大学に客員研究員として滞在していた時の研究仲間の教え子や学会で知り合った研究者のもとで学ぶ学生さんなど、若手の研究者がここにやってきて研究交流を行っています。『門戸開放』を掲げる東北大学らしい取り組みの一つと言えるかもしれませんね」。

臭化タリウム半導体による
ガンマ線検出器を開発。

2024年、人見教授はそれまでの研究の一つの到達点として、臭化タリウム半導体を用いたガンマ線検出器に関する論文を発表した。高いエネルギーを持った光子であるガンマ線は、とても高い透過力を持っていることから医学、工学などの分野で広く応用され、とりわけ医学分野ではガンの早期発見や脳機能イメージングに有効なPET(Positron Emission Tomography:陽電子断層撮影法)で利用されている。

ガンマ線の検出には、現状ではゲルマニウム半導体が広く使われているが、これに対し、人見教授らのグループは臭化タリウム半導体を用いた検出器の開発を進めてきた。その背景を人見教授は次のように説明する。「ゲルマニウム半導体センサーの場合、液体窒素で冷却し続ける必要があり、設備も大型にならざるを得ません。分解能は少し劣ってもいいから、室温で動作するコンパクトなセンサーはできないか。そこで着目したのが、ガンマ線の吸収効率が半導体材料としては最高クラスの値を持つ臭化タリウム半導体だったのです」。

人見教授らが当初開発した検出器は、その性能を維持するため、一定時間動かした後に加えている電圧の方向を切り替える作業が必要だった。この作業が不要となるように、臭化タリウムの結晶の表面に特殊な加工を施すなどの改良を行い、検出器をより長期間、安定して稼働させることに成功、その結果をまとめたのが2024年に発表した論文だった。

「臭化タリウム半導体を用いたガンマ線センサーの開発について、センサー単体ではほぼ完成の域に達した」と話す人見教授。これからの目標は、次世代の半導体PET装置やガンマカメラ(体内に投与した放射性薬剤から放出されるガンマ線を信号として受け止め、コンピュータ処理し画像化する装置)などへの応用だという。「臭化タリウム半導体の検出器を応用すれば、病変の位置をより正確に特定し、しかもガンマ線に対する感度が高いため、患者の被ばくを低減することも期待できます。とはいえ、私たちが開発したセンサーの大きさは、現状では最大で1cm角程度。人間の脳や体を見るには、もっと大きなもの、もっと安定して作動し、高性能な装置が必要でしょう。画像の取得という面では、まだ研究は始まったばかりです」。

東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

学部生時代の出合いから
化合物半導体の研究の道へ。

人見教授の主たる研究分野は、臭化タリウムという化合物半導体である。2種類以上の元素を組み合わせた化合物半導体は、シリコン(ケイ素)に代表される単一の元素からなる半導体とは異なり、高速動作や高い耐熱性、低消費電力、発光性などの特性を持ち、スマートフォン用の高周波デバイス、青色発光ダイオード(LED)、光ファイバー通信用のレーザーダイオードなどに幅広く応用されている。

人見教授と臭化タリウム半導体の出合いは、東北工業大学工学部電子工学科の学部生時代にまで遡る。「半導体の結晶やデバイスを作る研究室には、シリコンを材料にした半導体を研究するグループのほか、様々な化合物半導体を扱うグループもありました。研究室での当時の花形は鉛とヨウ素の化合物、ヨウ化鉛半導体。いずれはヨウ化鉛を研究対象にするとしても、最初はちょっと違ったものにチャレンジしてはどうかというアドバイスもあって、臭化タリウムに取り組むことになったのです」。

臭化タリウムの結晶は20世紀の初め頃から作られ、赤外線がよく通るという特性から、赤外線レンズや赤外線プリズム、窓材などに利用されてきた。アメリカの研究者からは、臭化タリウムを使って放射線が測定できるという報告もあったという。「臭化タリウムを半導体の材料として用いるには、結晶から不純物を徹底的に取り除き、高純度の結晶を得なければなりません。そこで、先行研究を参考に電気炉を用いて石英管中で溶融を繰り返す帯域精製という方法で純度を上げていったところ、驚くほど高純度でより性能の高い臭化タリウムの結晶ができました。それを論文にしたのが1998年、東北工業大学大学院の修士課程に在籍していた時です」。

「それまでは、論文を読んで『いやー、すごい人がいるものだ』と思うばかりだった自分が、論文を書き発表する立場になった」と笑う人見教授。一生懸命実験に取り組み、世界で最高水準の結果を得て、それを論文にまとめる。この一連の経験が、人見教授の研究者としてのその後の歩みを決定づけることになった。

情熱を持って取り組めば
不可能なことはない。

東北工業大学工学部電子工学科に入学した当初、「将来は電気系のエンジニアかな」という漠然とした将来像を描いていたという人見教授。そんな人見教授にとって転機となったのが、学部2年生の時の研究室体験だった。「放射線を測定する半導体センサーを作ることになり、東北大学にある加速器などの実験設備を使わせてもらいました。私のような他大学の学生にも門を閉ざすことなく受け入れ、一緒に準備し、実験し、研究に取り組んでくれる。これもまた、東北大学の『門戸開放』の理念の現れと言えるのではないでしょうか。その際につながりを持った東北大学の先生方や大学院生、学生さんたちの研究にかける情熱を肌で感じ、刺激を受けました。こんなに熱い世界が研究にはあるのか!そう感じたことを今も覚えています」。

人見教授は、工学の面白さについて、「座学と実験を交互に繰り返しながら進めていく点にある」と話す。「私の場合、半導体のための材料開発からセンサー製作まですべてゼロから自分で行なっているので、結果には言い訳ができません。それが私の研究の面白いところであり、やりがいにもなっています。情熱を持って取り組めば不可能なことはない、というのが研究者として歩んできた私の実感。高校生のみなさんには、どんなことでもいいからまずは飛び込んでみてほしい。必ずその中には困難さを含めた面白さ、そして達成の喜びがあるはずです」。

「六ヶ所村分室で生み出した技術によって、この六ヶ所村に新たな産業を興したい」と決意を語る人見教授。「先入観や思い込みを持つことなく、これからも研究に真摯に向き合い、分室のミッションの一つである地域産業振興の実現に貢献したいです」。