「新しい発見にこそ価値がある」
偉大な恩師たちにならび、
世界を変える研究者に。
東北大学 工学研究科・工学部 知能デバイス材料学専攻
ナノ材料物性学講座 量子材料学分野
准教授 好田 誠
生粋の“東北大学育ち”
世界トップクラスの研究所に挑む。
250人もの科学者が世界中から集い、過去2度にわたりノーベル賞を受賞した「IBMチューリッヒ研究所」。ナノテク誕生の地と呼ばれるこの“知の頂”に、今年5月から単身飛び込んだ日本人研究者がいる。30代という若さで日本の半導体物性研究の最前線を拓く、東北大学大学院工学研究科の好田誠准教授だ。小学生の時にテレビを通じて知った半導体の世界、半導体材料研究においてパイオニア的存在である東北大学に憧れ、入学。同大学院を卒業し、今なお同研究科に所属する、生粋の“東北大学育ち”と言える。「今私がここに立っているのは、学生時代からこれまで偉大なる恩師たちに学び、そして大学院時代に支え合って、卒業から9年経った今でも刺激をくれる仲間がいるからだと思うんですよね」現在は世界トップクラスの研究所で新たなステージへと登る好田准教授。過去から未来へと伸びる道の途中には、数々の出会い、恩師と仲間との厚い絆があった。


憧れていた東北大学での材料研究。
生まれ育った東京を離れ一人仙台へ。
パソコンや携帯電話の容量がオーバーし、仕方なく写真や動画、音楽のデータを削除したり、映像や音楽の処理速度が遅くてイライラしたことがある人は少なくないはずだ。しかし電子機器の処理速度と記憶容量は年々増大し、近年ではスピードやデータ量を気にすることも減りつつある。処理速度や記憶容量の進化は、人々のライフスタイルを豊かに、より多彩にしていると言えるだろう。こうしたデバイスのコア技術を構築しているのが、好田准教授の専門分野「半導体スピントロニクス」研究だ。「もともとは小学生の時、テレビで半導体の特集を見たんです。小学生だからもちろん詳しいことはわからなかったんですけど、テレビで見た研究室の雰囲気が潜水艦みたいでとにかく格好よくて。面白そうって思ったんですよね。その研究室の所属が東北大学大学院工学科だったんですよ。その印象が鮮明で、高校生になっても半導体を含め材料分野をリードしている東北大学に行くと、自然に心の中で決めていたんだと思います」好田准教授は東京出身。都内の大学を選ばずあえて仙台に進学する好田准教授に周囲は驚いた。しかし材料研究を強力に牽引する東北大学で学ぶことは、もはや譲れない夢となっていた。

留学が培った研究者への道。
「大学院まで行ってドクターをとろう」
大学院入学時、好田准教授はすでに博士号を取得することを目指していた。「大学3年生の時に1年間アメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校に留学したんです。同年代のアメリカの大学生が、毎日深夜まで勉強する姿を見て、このままじゃ負けると感じたんです。だから、日本に帰ってから、大学院まで行ってドクター(博士号)をとろうって」留学先では青色発光ダイオードの研究者に出会った。そこで半導体を用いた発光素子の研究に興味が湧き帰国。研究室で「スピン」の存在も知り、現在の研究のベースが出来上がった。「スピンというのは電子の自転運動のことで、磁石の起源にもなる電子の基本的な性質なんです。にもかかわらず半導体分野では長い間そのスピンの性質は使われてこなかったんですね。スピンと半導体を含むエレクトロニクスの分野が組み合わさって、半導体スピントロニクスという専門分野が生まれました。誕生してからまだ25年程度と若い研究分野ですが、既に実用化された技術もあり、現在は主にパソコンやメモリの高性能化をメインテーマに研究が進められています」研究に没頭した大学院時代。1年目に研究成果を出したが、2つ目の成果までは決して平坦な道ではなかった。それでも不安にならなかったのは、いつもまわりに励まし合う仲間がいたからだった。


東北大学 工学研究科・工学部 知能デバイス材料学専攻
ナノ材料物性学講座 量子材料学分野
准教授 好田 誠

2001年、東北大学工学部電子工学科卒業。2005年、東北大学大学院工学研究科電子工学専攻を卒業し、工学博士号取得。現在の研究課題は、スピン軌道相互作用を用いた電気的スピン生成・制御・検出に関する研究。大学院1年目に「応用物理学会講演奨励賞」、卒業後の2010年「トーキン科学技術振興財団 研究奨励賞」、2014年に「本多記念会 研究奨励賞」等を受賞。