東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT
東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

シミュレーションの力で、
根拠に基づく強靭なまちづくりを。

東北大学 大学院工学研究科
土木工学専攻
博士課程前期1年
ガルビン 妃羅 REPORT #40

© School of Engineering, Tohoku University

根拠に基づいた未来の提示。
その責任が、私たちにはある。

2025年8月、内閣府からあるシミュレーション映像が公表された。タイトルは「富士山の大規模噴火と降灰の影響」。富士山で大規模噴火が発生した場合、どのような現象が起こり、どのような影響が及ぶのかを、CGや実際の映像を交え紹介する内容だ。南海トラフ地震や首都直下地震の発生が懸念される中、これらの地震についても同様のシミュレーション映像が内閣府によって提供されている。

「こうしたシミュレーションの中で紹介される噴火や降灰、建物や道路の倒壊といったイメージCGは、新たな自然災害に対する警鐘という点では意味があるかもしれません。しかし、イメージCGで描かれるのは、あくまで想像の世界。私が研究者として目指すのは、物理に基づいたシミュレーション、起こり得る可能性の提示です」。こう話すのは、東北大学大学院工学研究科土木工学専攻のガルビン妃羅さんである。

ガルビンさんは、数理的方法によって材料や構造の強度と変形特性の予測評価に取り組む「数理システム設計学研究室」の一員として、流木を含む土石流被害のシミュレーション手法の開発に携わってきた。「近年の豪雨災害では、流木を含む土石流の発生が各地で発生しています。流木の集積や、河道の閉塞などによって引き起こされる被害をシミュレーションによって事前に予測することができれば、自治体による備えにつなげられるのではないかと考えています」。

ガルビンさんは、所属する研究室を「物理に基づき、数学を駆使して解析に取り組むことのできる場」と表現する。「大学の研究室という場に身を置く私たちには、根拠に基づいた未来を社会に向けて提示する責任があると思います」。

経験則がものをいう
土木の世界に、
物理に基づく
シミュレーションを。

ガルビンさんがこれまで取り組んできたのは、「粒子法による流体−剛体連成解析」に関する研究である。この手法は、流体(液体や気体など、外力が加わると連続的に変形し流動する物質)の動きと剛体(力を加えても形や大きさが変わらないと仮定された物体)の動きが互いに影響し合う状況をシミュレーションするためのもので、特に、従来の解析手法では難しいとされていた自由表面流(川の流れのように、液体と気体の境界面をもつ流れ)や複雑な物理現象の解析に強みを発揮するという。L字型の落下体の水中沈降実験では、この手法を用いたシミュレーションの妥当性がすでに実証されている。今後の課題は、豪雨災害時に発生する流木の挙動を、どのようにシミュレーションに展開していくかにあるという。

「その際に考慮しなければならない要素の一つが、樹木特有の“しなり”です。しなりがなければ、それは樹木ではなく、ただの棒になってしまいます。現在は、修士論文に向け、この樹木のしなりをどう数学的に表現するかに取り組んでいるところです。樹木は多様な形状をしており、その違いをどうモデル化するかが課題になります。そのモデルをもとに、樹木が生えている場所に水(津波)が当たったときに、どのような挙動を示すのかを可視化できるところまで進めたいと考えています。モデルが複雑になるほど、必要となるメモリ量や計算時間は大きくなります。シミュレーション手法そのものについてはクリアできると考えていますが、今後の研究の進展は、コンピュータの計算能力にかかってくるかもしれません」。

「土木の世界は、経験則がものを言う部分が少なくありません」と話すガルビンさん。「『雨がこれくらい降れば、水はこのくらい流れる』といった考え方は、経験に基づくものであり、必ずしも十分な根拠があるわけではありません。だからこそ、物理に基づいたシミュレーションの重要性は、今後ますます高まっていくのではないでしょうか」。

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土木の世界で、
広く人の役に立つ仕事を。

宮城県仙台市で育ったガルビンさんは、小学2年生のときに東日本大震災に遭遇した。震災後、地震や津波の話題に多く触れる中で、土木という世界への興味が生まれ、「自然災害に耐えられる街になるには、そもそもどうしたらよいのか?」を考えるようになったという。そして高校生になり、土木の世界に近づくもう一つの大きな経験をする。それが、「カンボジアの水上集落の水問題」をテーマとした課題研究の授業だった。

この授業では1年間を通して、湖の上で生活する水上集落の人々が抱える課題を、“水”という切り口から調査・研究した。夏休みには実際にカンボジアを訪れ、フィールドワークも行ったという。「“雨水班”や“浄水班”など、いくつかの班に分かれ活動したのですが、塩ビ管を切って雨どいを作るという取り組みが面白そうだなと感じ、“雨水班”を選びました」。2週間にわたる現地でのフィールドワークでは、集落の家屋に雨どいを設置するとともに、住民へのインタビューも実施。そこで感じたのは、「これって、私たちの自己満足じゃないのか」ということだった。「現地の人々の暮らしを見て、衛生的とは言えない現状を変えなければならないと私たちが思ったとしても、実際に生活している人たち自身がその暮らしに満足しているのであれば、こちらの価値観を単に押し付けているだけではないのか。その思いを担当の先生に伝えると、『それを知るための授業なのだから、それでいいんだよ』という言葉が返ってきました」。

「大学では地震や津波についてさらに学びたいと考えてはいたものの、そのためのアプローチは、土木系に限らず、例えば材料系などの他の分野からも可能なのではないかとも思っていました。もともといろいろなことに興味を持つタイプで、どの学科もみな面白そうに見えてしまって…」と話すガルビンさん。そんな迷いの中で、進路選択の決め手となったのが、この課題研究だった。「水環境や国際的な課題に触れ、視野を広げることができました。この経験を通して、広く人の役に立ちたいという思いがとても強くなりました。土木には、縁の下の力持ちというイメージがあります。土木の世界で、人の役に立つ仕事に携わりたい、そのためには建築・社会環境工学科で土木を学ぼう。この課題研究の経験が、その決心を後押ししてくれました」。

学科選択に悩んだ先輩の一人として、ガルビンさんはこうアドバイスする。「高校までのたくさんの経験の中から、進路の決め手となるような何かをぜひ見つけてほしいと思います。すぐに見つからなかったとしても、大丈夫。どの学科に進んでも、自分のやりたいことがきっと見つかる、そんな環境が東北大学工学部にはあります」。

就職活動を通して、
水への興味を再認識。

工学部には5つの学科があり、3,000名を超える学生が学ぶ。学部生として過ごした日々をガルビンさんはこう振り返る。「学部の最初の頃に、他学科の学生と一緒に学ぶ機会がありました。所属学科によって、興味や関心、持っている知識、それまでの経験に違いがあり、同じ学科の学生だけでは得ることのできなかった気付きや視点に出会うことができました。その中で知り合った友人とは、大学院生となった今でも交流が続いており、大学生活の大切なアクセントの一つになっています。また、学部の低学年時には、物理や数学などを広く学ぶ授業が設けられており、当時はその意義を十分に理解できていませんでしたが、今振り返ると、自分の可能性を広げてくれた授業だったと感じています」。

学部生時代を「どちらかと言えば受け身タイプだった」と振り返るガルビンさんだが、4年次の研究室配属後、その姿勢は明らかに変化したという。「数理システム設計学研究室は、学生の主体性を大事にする研究室で、自ら手を挙げれば、学会発表や論文執筆など、さまざまな機会が与えられます。国内の学会にはこれまでに3回参加し、発表も経験することができました。さらに、2025年12月には、オーストラリアで開催された国際学会での発表の機会にも恵まれました。学部3年次までの3年間と研究室配属後の日々では、見える景色がまったく違っていると感じています」。

修士課程修了後の進路として、土木系企業への就職を希望しているガルビンさんは、これまでに2社でインターンシップを経験している。「インターンシップや就職活動を通して、河川や港湾など、“水”をキーワードとする企業に惹かれる自分を発見し、やはり興味はそこにあるのだと再認識しました。近年、水害が多発していることもあり、河川など水に関わる分野で働きたいという強い思いが強くなっています。発注者側である国や自治体に対し、解析をもとに提案を行う計画側の仕事に携わることができたらと考えています」。