東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT
東北大学 工学研究科・工学部 Driving Force 明日を創るチカラ INTERVIIEW REPORT

根幹にあるのは「環境や自然との関わり」。
自らの技術力で社会に貢献したい。

住友化学株式会社
工業化技術研究所 大阪プロセスグループ
宮本 潤 REPORT #41

© School of Engineering, Tohoku University

アカハライモリの
飼育体験から
ネイチャー・テクノロジー
の世界へ。

“トカゲのしっぽ切り”という言葉があるが、しっぽのみならず、足やあご、目のレンズ(水晶体)、さらには心臓まで再生することができ、再生医療への応用が期待される生き物として、いま注目を集めているのが日本固有種のアカハライモリである。東北大学工学部化学・バイオ工学科、同大学院工学研究科化学工学専攻を経て、現在、住友化学株式会社工業化技術研究所で研究職に就く宮本潤さんは、子どもの頃、アカハライモリの魅力に心を奪われ、飼育や孵化を試みた経験を持つという。

「アカハライモリは、真っ黒な体に赤色の腹、その毒々しい見た目が何と言っても魅力的です。赤ちゃんの時は、外鰓(がいさい・外エラ)と呼ばれる呼吸器があり、まるでウーパールーパーのよう。成長するとだんだんエラがなくなっていってトカゲのようなフォルムになっていきます。ウーパールーパーの時とトカゲの時と、アカハライモリの飼育は二度おいしい。クリクリとした目の可愛さもポイントです」。アカハライモリの魅力を熱く語る宮本さん。その自然への関心は、やがて、生物の持つ機能や働きを技術に応用しようとする“ネイチャー・テクノロジー”の世界へと広がっていったという。

「新幹線車両の先頭の形状が、水中の魚を捕る際に抵抗を受けにくいカワセミのくちばしに着想を得ているというのはみなさん聞いたことがあるかもしれません。この他にも、電気掃除機の中にあるゴミを圧縮するブレードに、毛づくろいの時に毛玉を効率よく作ることのできる猫の舌の構造が応用されているという話もあり、自然の中から学び、それを技術に応用するというところに面白さを感じました」。この“ネイチャー・テクノロジー”の考え方を社会に向けて広く発信していたのが、当時東北大学大学院環境科学研究科に在籍していた石田秀輝教授(現・東北大学名誉教授)だった。

「石田先生の書かれた本などを読み、自然界の生物や仕組みを模倣・応用して社会課題を解決するという考え方に感銘を受けた」という宮本さんは、高校卒業後の進路の一つとして、東北大学を意識することになる。

国内外を問わず活躍できる、
最先端の研究者を目指して

生まれ育った四国・愛媛県を離れ、宮本さんが進学先に選んだのが、東北大学工学部化学・バイオ工学科だった。「工学部を選択したのは、社会の役に立つ実学を学びたいと考えたから。科学技術の恩恵を人間社会にいち早く実装し還元する上で、工学部が近道になるのではないかと考えました。化学・バイオ工学科を選んだのは、自分にとって幅広い選択肢を持つことができるという期待があったから。有機化学、無機化学、生化学、バイオ工学、化学工学など、様々な分野の専門知識を得られることが一番の魅力でした」。

入学当時思い描いていた将来像は、「国内外を問わず活躍できる最先端の研究者」だったという宮本さん。その実現のため、在学中に挑戦したいと考えていたのが長期留学だった。そこで活用したのが“東北大学グローバルリーダー育成プログラム(TGLプログラム)”。グローバルに活躍する人材を育成するための学部学生を対象としたプログラムで、グローバルゼミの履修、ポイント対象となる授業の履修、海外研修プログラムへの参加など、必要な要件を満たして最終審査を通過すると、大学からグローバルリーダー認定証が授与される。「TGLプログラムでは、留学生と一緒に調べ発表する『グローバルゼミ』が特に印象に残っています。文化背景の異なる学生たちと話すことのできる機会はとても貴重で、どう話せば相手によく伝わるかを考えながら話す、そんな習慣が身に付きました」。

在学中に長期留学を、という希望はかなわなかったものの、宮本さんは工学研究科インターナショナルオフィスが毎年企画する“国際工学研修”でスウェーデンと台湾に各1週間、全学を対象に実施される“SAP(Study Abroad Program)”でフランスに2週間、短期留学を経験、TGLプログラムでもグローバルリーダーとしての認定を受けた。

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培った技術力を
より早く社会実装に
つなげたい。

燃焼などの現象について、実験を通じての理解とコンピュータによる理論化に取り組む青木秀之教授の研究室に所属した宮本さんは、学部・大学院修士課程を通じて「燃焼過程におけるすす生成のシミュレーション」をテーマに研究に取り組んだ。背景にあるのは、工場や自動車から排出される排気ガスに含まれる物質(すす粒子など)への規制が年々厳しくなっていること。「工場の燃焼設備や自動車のエンジンの設計・開発において、環境負荷の低い機器を、プロトタイプ(試作機)を作ることなくPC上で再現できれば、設計・開発にかかる時間とコストを削減することが可能になります。そこで、すす粒子の生成量を正確かつ迅速に予測できる精度の高いシミュレーションを目標にプログラムを開発、計算コストを減らしつつ正確にシミュレーションするというところまではクリアすることができました。自然や環境への関心を原点に工学の道を選んだこともあり、環境負荷と密接に関わる燃焼を研究テーマとしたことで、学部から修士課程修了までの6年間にわたり『環境』という一貫した軸を持ち続けることができたと感じています」。

修士課程を修了した2021年、宮本さんは住友化学株式会社に入社。以来、工業化技術研究所に所属し、環境技術をはじめとする様々な加工生産技術の開発や既存プロセスの改良に取り組んできた。「大学入学当初は博士課程への進学も視野にありましたが、自分の培った技術力をより早く社会実装につなげたいという思いから、民間企業の研究者という道を選びました」。

住友化学という選択には、ある記事との出合いもあったと宮本さんは話す。「この会社が開発した製品の一つに『オリセットネット』というマラリア対策向けの防虫蚊帳があります。蚊帳の繊維に防虫剤が練り込んであるというもので、蚊が媒介する伝染病に苦しむアフリカなどの地域で、予防に貢献しているという内容の記事でした。『自然との関わり』がいつも根幹にある自分にとって、これも心を動かされる記事でした」。

宮本さんが現在携わっているのが、“排水ソリューション”の事業化プロジェクトだ。プロジェクトの対象は、公共自治体の下水処理場や工場の排水処理設備の多くで採用されている、“活性汚泥法”と呼ばれる排水処理プロセスである。「活性汚泥法は、生活排水や工場排水中の有機物を微生物の働きを利用して分解し、水をきれいにする処理技術です。排水処理設備を有するお客様の様々な困りごとに対して、バイオの技術とデジタルの技術を掛け合わせ、効率的な運転方法などのソリューションを提供することを目指しています」。

得られる学びは
きっとある。
だから、迷ったらGO!

「図書館も夜遅くまで使うことができ、時間割の許す限り多種多様な分野の授業を自由に受講できた。研究室に入ってからは自分専用のPCが提供され、十数台の計算機サーバーを自由に使うことができた。今から思うととても贅沢な研究環境だった」と東北大学で過ごした学びの時間を振り返る宮本さん。学部生時代、学び以外の部分で真摯に取り組んだのが、“学友会 応援団”と“東北大学てんかん啓発サークルΠ~PIE~”での活動だ。

リーダー部、チアリーダー部、吹奏楽部の3つのパートで構成される応援団で、宮本さんはリーダー部に所属し、広報部長を務めた。「時には応援歌を歌い、時には団旗を掲げ、時には太鼓を打ち鳴らし、縦横無尽に試合会場を駆け回っていました。入団のきっかけは、応援団の硬派なイメージとは異なり、爽やかな雰囲気の先輩に惹かれ、『この人のもとで頑張れば、人間的に成長できる!』と確信したから。50人を超える大所帯の中で、コミュニケーション能力、とりわけ先輩とのコミュニケーションの取り方を学ぶことができました」。

東北大学てんかん啓発サークルΠ~PIE~での活動は、1年次に受講した基礎ゼミ(現在のカリキュラムでは「学問論群」)の授業がきっかけだった。「医学系研究科のてんかん学分野の先生方が主宰するゼミで、てんかんという病気を医学的な側面だけではなく、心理、社会などの視点から多角的に学び、考察するという内容でした。ゼミの中で啓発イベントに参加させていただく機会があり、啓発活動がてんかんに対する偏見や差別、てんかんを持っている人の生きづらさを解決する一つの手段であると考えた私は、ゼミの仲間たちと意気投合し、このサークルを立ち上げたのです。『Purple Day』という啓発イベントを医学系研究科てんかん学分野のみなさんと企画・運営したほか、てんかんの啓発カラーである紫色のファッションを着こなす『Mr. Purple & Ms. Purple』というコンテストを開催したり、大学祭では紫色の食べ物の一つである石焼き芋を販売し、てんかんに関するパンフレットを配布する活動も行いました」。

所属する研究所の先輩社員から「チーム内のムードメーカー的な存在」と評される宮本さん。そんな宮本さんが未来の後輩たちに向けて贈る言葉は、「迷ったらGO!」。「高校時代の恩師からもらった言葉です。後悔のない選択はあり得ません。事前にリスクを考えることも重要かもしれませんが、考え過ぎずに興味のあることに飛び込んでみることで、得られる学びがきっとあると思います」。