納得するまで、疑問を突き詰めたい。
世界有数の製鉄所で道を拓く女性エンジニア。
JFEスチール株式会社 東日本製鉄所(千葉地区)
ステンレス部ステンレス技術室
朝倉詩乃
24時間365日、1500℃の世界ヘ。
一人の若き女性の挑戦。
24時間365日、1500℃の世界がある。そこでは日常生活からかけ離れた温度と技術により、鉄鉱石が湯のように溶かされ、日常生活に欠かすことのできない製品の基盤が生み出されている。製鉄所のシンボル、溶鉱炉だ。やがて流れ出た銑鉄は徹底的に不純物が取り除かれ、鋼となり、徐々に冷やし固められ、いくつもの工程を経て、鋼板へと鍛えられていく。工学の粋を集めた「製鉄所」、その世界は深く広く、社会に技術革新と「便利」を発信し続けているのだ。2013年4月、“男性が働く業界”とのイメージが強いこの製鉄業界に、一人の若き女性が挑んだ。彼女の名前は、朝倉詩乃さん。東北大学大学院で修士号を取得し、自ら望んで製鉄の世界に飛び込んだのだ。決して易しい世界ではない。常に最新の技術が求められ、結果が求められる。しかし彼女には大学院時代、自然と身につけた一つの信条があった。恩師の背中に学んだというその信条が、前人未到の領域へと彼女を進ませたのだ。


理工系への進学と、環境問題への興味。
「両方が交差する場所が、東北大学」
日本有数の製鉄所に勤める朝倉さんだが、幼い頃はピアノを習い、幼稚園の先生になることが夢だった。小学校から中学校へと進むうち、自分が数学に強く、また好きであることに気がつく。「他人と違うことがしたい」一般の高校ではなく、中学校卒業後は工業高等専門学校に進むことを決めた。「振り返れば、あの頃が岐路だったのかもしれません。高専に入ってからさらに学びたい気持ちが膨らんで、そのまま専攻科に進学しました」専攻科で学士号を取得後、将来の選択肢を広げたいとの思いから修士号取得を目指す。そこで進路候補に上がったのが、東北大学大学院工学研究科だった。「理工系に進んでみたいという気持ちと、当時ニュースでも頻繁に取り上げられていた環境問題の解決に関わってみたいという気持ち。両方が交差する場所が、東北大学でした。せっかく修士を取るなら、工学の最先端をいく大学がいい。その大学が自分の生まれ育った宮城にあるのだから、迷いはまったくありませんでしたね」

東北大学こそ、自分が探していた居場所。
2年間燃やし続けた研究への情熱。
東北大学大学院での研究室選びも、朝倉さんにとって迷いはなかった。「高専専攻科の時に東北大学を見学させていただいたのですが、ある研究室の研究内容を見て『ここだ』と心が決まりました。そこは環境問題解決に直結する、次世代エネルギーを研究するマテリアル・開発系の研究室でした」自分が探していた居場所に出会う。その喜びは朝倉さんの研究魂に火をつけた。大学院入学後、酸素透過膜による燃焼効率向上をメインテーマに定め、エネルギーに関する材料工学を学んだ。2年目の秋には金属学会に参加し、自ら集積した実験データを発表。大きな舞台で自分の研究が認められるという経験も得た。そして再び、朝倉さんは新たな岐路に立つ。就職だ。「工学研究科を修了されたOBから、さまざまな企業の紹介をいただいて。その中で自分が特に心惹かれたのが、ガス会社などのエネルギー系企業、環境系の研究所、そして熱心に仕事のやりがい、魅力を説明してくれた製鉄メーカーでした」材料工学の知識が活かされ、スケールの大きな製鉄メーカーか、ずっと憧れていたエネルギー系企業か。初めての迷い、人生を左右する決断。応募期限は刻々と迫り、焦燥感だけが高まっていった。


JFEスチール株式会社 東日本製鉄所(千葉地区)
ステンレス部ステンレス技術室
朝倉詩乃

2009年、宮城工業高等専門学校(現・仙台高等専門学校)材料工学科卒業。2011年、同専攻科生産システム工学専攻を卒業し学士号を取得。2013年、東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻を修了、修士号を取得する。2013年4月、JFEスチール株式会社に入社、東日本製鉄所(千葉地区)ステンレス部ステンレス工場に配属され、2014年4月に同ステンレス技術室に異動となり、現在に至る。