納得するまで、疑問を突き詰めたい。
世界有数の製鉄所で道を拓く女性エンジニア。
JFEスチール株式会社 東日本製鉄所(千葉地区)
ステンレス部ステンレス技術室
朝倉詩乃
迷いの霧を抜けて、自ら歩む道を選ぶ。
決断の材料は「必要とされているか」
製鉄メーカーへの応募〆切前日。朝倉さんは東京で別業界の会社説明会に参加していた。製鉄業界以外の仕事への迷いが捨てきれていなかったからだ。説明会で、どの道を選ぶべきかという自分自身の気持ちがますますわからなくなった。決断しなければ。しかし思いが定まらない。焦燥感が限界に達し、朝倉さんは仙台へと帰る新幹線から1本の電話をかけた。相手は、研究室の教授だった。「泣きながら先生に電話したら、まず研究室においで、待っているからと言っていただいて。仙台に戻ってそのままの足で東北大学に向かいました」夜遅い時間にも関わらず、教授は製鉄メーカーに就職するメリット、デメリットを丁寧に教えてくれた。「最終的には自分で決めることだと諭していただいたこと、そして『必要とされているか』を大切にしなさいと言ってくださったこと。今でもよく覚えています。その言葉が背中を押してくれました」期限最終日、朝倉さんは現在の職場「JFEスチール株式会社」に応募することを決めた。エネルギーを生み出す企業ではないが、エネルギー業界を支える鉄鋼製品をつくり、莫大なエネルギーを無駄なく使うという点で、環境に関わり続けることができる。何より、材料工学の知識を持った自分が必要とされる。恩師と家族に支えられ、自ら下した決断に自信が持てるようになった。


「高炉メーカーに入るからには、
やっぱり製品に一番近いところで」
日本第2位、世界第9位の粗鋼生産量を誇る「JFEスチール株式会社」。国内に2か所4地区の製鉄所を構える同社の需要は、自動車、造船、建築などスケールの大きなものから、家電、調理器具などの日用品にいたるまで非常に幅広い。朝倉さんは新人研修を経て、JFEスチール東日本製鉄所(千葉地区)のステンレス部ステンレス技術室に配属となった。製鉄メーカー自体女性が少なく、入社した場合にも“研究職”としての配属が一般的だ。しかしステンレス技術室はいわゆる“現場の技術職”。工場内を直接歩き、製造工程の改善のために奔走するエンジニアだ。“現場の技術職”は、朝倉さん自身が望んだ場所だった。「高炉メーカーに入るからには、やっぱり製品に一番近いところで働きたい。たくさんの人と一緒に働きたいですから。むしろ現場以外は頭になかったかな。一つの製品ができるまでには、鉄鉱石を溶かすところから始まり何千人もの人が携わって、ようやく私たちのステンレス部に来るんですよ。どの工程が欠けても、成り立たない。協力して成し遂げているという一体感が、この業界の面白さだと感じています」

東北大学で恩師に学んだ信条。
「なんでだろう?」を突き詰めること。
ステンレス部初の女性社員。男性ばかりの環境だが、エンジニアに男性も女性も関係ありませんからと朝倉さんは笑う。性別ではなく研究への熱意が問われる工学の世界。大学院時代に培った情熱が、彼女のステージを広げてきたのかもしれない。「東北大学工学研究科の研究室にいた2年間で、『なんでだろう?』をとことん突き詰めることを学びました。何かを疑問に思うことは、根本的な解決策を見出すことにつながるんだとわかったんです。『なんでだろう?』に始まる解決までのプロセスを学べたことは、今の私に欠かせない経験です」社会人となり、ふと沸いた疑問に向き合い続ける時間が確保しにくくなった。それでも朝倉さんは、感じた疑問をノートに書き留め、時間ができた時にその解決方法を模索するという。諦めず、納得できるまで考える。朝倉さんの原動力なのだろう。「まだ入社2年目、これからようやく会社全体のこと、製鉄のことが見えてくるのだと思っています。現場の先輩達からは『うちの部から女性初の工場長を出したい』と言ってもらっているので、その期待に応えられるようにがんばりたいですね。そして自分がたくさんの東北大学OBに支えてもらったように、自分の努力によって、未来の後輩の道を切り拓いていきたいと思います」


JFEスチール株式会社 東日本製鉄所(千葉地区)
ステンレス部ステンレス技術室
朝倉詩乃

2009年、宮城工業高等専門学校(現・仙台高等専門学校)材料工学科卒業。2011年、同専攻科生産システム工学専攻を卒業し学士号を取得。2013年、東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻を修了、修士号を取得する。2013年4月、JFEスチール株式会社に入社、東日本製鉄所(千葉地区)ステンレス部ステンレス工場に配属され、2014年4月に同ステンレス技術室に異動となり、現在に至る。