宇宙の物質の99%を占めるプラズマ。
無限の可能性に情熱を注いで。
東北大学大学院工学研究科・工学部
電子工学専攻 物性工学講座
プラズマ理工学分野 教授
金子俊郎
幅広い研究テーマを貫くもの。
「プラズマの可能性」
慣れ親しんだ研究環境で、もっと深い研究をしたい。何よりも、さまざまな学部が手を取り合い、連携し合う学術機関で研究を進めたい。これらの希望を叶えてくれるフィールドは、金子教授にとって東北大学だけだった。「博士後期課程を修了してすぐに助手になることができて、幸運にも研究者としての第一歩をここから踏み出すことができたんです」 34歳で助教授、42歳で教授に就任。現在は、プラズマナノ物質合成、プラズマの医療応用、農業応用、核融合プラズマ物理という4つのテーマを中心に研究に取り組む。非常に幅広く、方向性も異なる研究テーマ。これらを貫くものはと問うと、「プラズマの可能性」という答えが返ってきた。「プラズマ自体は、約半世紀前から本格的に研究されてきたもので、工学の研究分野としてはまだ若い分野と言えるでしょう。はじめは核融合の実現に向けて、次に半導体製造の研究が工業と結びつき、環境問題解決の研究にも発展しました。ここから大気圧プラズマ、そして生命の起源、医療・農業分野への応用が広がってきているんです」 昔は真空装置の中だけで行われてきたプラズマ研究が、大気中でプラズマを作ることができるようになり、分野の壁を超えていく。その可能性に自分も賭けてみたい。プラズマの汎用性の高さに呼応するように、金子教授は研究のテーマを広げてきた。


プラズマ応用の新しいカタチ。
農薬を使わない野菜づくりへの挑戦。
現在金子教授と研究室の学生らが通うプロジェクトの舞台は、東日本大震災で被災した山元町のいちご農家。ここで金子教授の研究テーマの1つ、農業応用の実用化が進められている。目指すのは、プラズマによる無農薬農業。大気圧プラズマジェットをいちご株全体に照射することで、農薬を用いずに病原菌を排除するという。「プラズマは作物に残留しません。はじめに導入する機械の設備費以外はコストもほとんどかからず、安全な作物を生産することができるようになります」 約2年間にわたる構想を経て、2年前にスタートしたこのプロジェクト。以前から種や収穫後にプラズマを使用する研究はあったが、株の状態で照射した研究はなかった。どのような結果になるのか、予測もつかない出発だった。装置だけでの実験と異なり、生き物が相手の実験。同じ条件で行っても、同じ結果が揃わず苦悩したこともあった。「科学と生物、工学が融合した実験なんですよね。この2年間、その難しさを痛感しました。でも実験は着実に進んでいます。農家さんも無農薬野菜を安全につくれたら嬉しいと協力してくださっていて。2年後には実用化できるかもしれません」

アプローチを繰り返すことで生まれる、
新しい何かを見つけるよろこび。
金子教授が研究の場として東北大学を選んだ理由、そして新しい角度からプラズマ研究を進めている理由。“学部間連携の活発さ”は、山元町いちごプロジェクトにも深く関わっていた。「実は農業に携わる方からの相談を受けて、農学部の先生を探し電話してみたのが始まりでした。自分の研究分野にはない知識、考え方を教えてもらって、協力し合い、今の形ができ上がったんです。医療応用についても、医学の先生との出会いから発展したもの。東北大学は自分にとって研究の幅が際限なく広がる、本当に貴重な場なんですよね」 工学と農学、工学と医学。異なる性質のものが出会うこと、互いを高め合うことは楽しいですからと、金子教授は目を輝かせた。小さな疑問を見つけ、アプローチする。予測しない結果が生まれる。その結果に新しい疑問が湧き、またアプローチを繰り返す。止まることのないサイクルの過程で、これからも大きな発見と発展が生まれていくのだろう。「調べてもわからなければ知っていそうな人に相談してみればいい。そこで教えてもらったことをもとに、さらに自分で考える。学生にもよく言うことです。自分で制限しないこと、壁をつくらないことが、後に役に立つ。プラズマの可能性はまだまだ未知数ですが、高く、広く、挑んでいきたいと思います」


東北大学大学院工学研究科・工学部
電子工学専攻 物性工学講座
プラズマ理工学分野 教授
金子俊郎

1992年、東北大学工学部卒業。1994年、同大学院工学研究科博士前期課程、1997年、博士後期課程を修了し、東北大学大学院工学研究科助手。助教授を経て、2012年、教授に就任。研究分野はプラズマ科学、プラズマナノエレクトロニクス、電子・電気材料工学。2013年7月には、日本物理学会および応用物理学会加盟の「Association of Asia Pacific Physical Societies」において、「Chen Ning Yang Award」を受賞。