プラズマを利用した植物の気体窒素肥料生成

- 空気から生成されたN2O5が植物の窒素欠乏を補う -

2024/04/22

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科バイオ工学専攻 教授 魚住 信之
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 植物に窒素源を気体で供給する方法が示されました。
  • 空気中の窒素をプラズマ照射により五酸化二窒素(N2O5)に変換する技術を窒素肥料としての利用へ展開しました。
  • 従来の硝酸源とは異なる太陽と空気だけを利用した環境に優しい持続可能な窒素肥料生成法として期待されます。

概要

大学院工学研究科バイオ工学専攻の山梨太郎大学院生、石丸泰寛准教授、魚住信之教授は、同電子工学専攻の武士将熙大学院生、佐々木渉太助教、髙島圭介助教(研究当時)、金子俊郎教授との共同研究で、金子教授らの研究グループが以前に開発した空気中の窒素をプラズマ照射によってN2O5に変換する技術を応用し、植物(シロイヌナズナ)に供給し、窒素源欠乏状態の植物の生育が向上することを見いだしました。これにより、空気窒素を気体肥料原料として用いるとともに、新たな窒素源の施肥手法の展開の可能性が示されました。


図1. 研究の概要図

研究の背景

窒素(N)は植物にとって最も重要な栄養素のひとつです。世界中の農業で窒素肥料が利用されており、人口増加に伴う食料需要の増加は窒素肥料の需要も増加させています。現在窒素肥料の製造はハーバー・ボッシュ法(ノーベル化学賞)に依存していますが、この方法は毎年世界のエネルギーの約1%を消費し、3億トン以上の二酸化炭素を排出しています。

研究グループは、エネルギー消費量が多いハーバー・ボッシュ法に代わる持続可能な手法を見いだすことをめざし、植物の成長を促すための窒素固定の新しいアプローチを探求しました。

2021年に東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の金子俊郎教授らは、プラズマにより空気から五酸化二窒素(N2O5)を合成することに成功しています(参考文献)。プラズマを使用した窒素固定は、小規模(分散化可能)・穏やかな反応条件・制御の容易さから最も注目されている手法の一つです。 本研究では、金子教授らのグループが独自に製作したプラズマ発生装置を用いて空気から生成したN2O5が、モデル植物であるシロイヌナズナの窒素源としての利用可能性を実験的に検討しました。

今回の取り組み

研究グループは、携帯用のプラズマ装置を介して大気中から生成されるN2O5を植物の窒素源として利用しました。N2O5は水と接触するとただちに硝酸(NO3-)に変換される性質があり、水分で構成されている植物や培養液に気体N2O5を処理することで葉面や根の周辺に硝酸態窒素が生み出され、従来の窒素源と同様に欠乏を克服することができました。植物に直接N2O5を供給した場合には毒性が顕著となり成長が抑制されるという欠点が見られましたが、植物へのN2O5の供給を間接的に行うことや、湿った空気を用いることにより、毒性を軽減できることも見いだしました。


図2. 研究の概要図

この結果は、N2O5が植物への従来の窒素施肥の代替手法となり得ることを示唆します。大気中に含まれる窒素とプラズマ照射により生成可能なN2O5を使用することで、より小さな環境負荷で作物収量を向上させられる可能性があります。

今後の展開

本研究は、従来の窒素肥料の入手の難しい地域での展開や、さらに太陽光発電などの持続可能なエネルギー源を使用することで、地球外ミッションにおける応用への発展が期待されます。

参考文献

Shota Sasaki*, Keisuke Takashima & Toshiro Kaneko, “Portable plasma device for electric N2O5 production from air”. Industrial & Engineering Chemistry Research, 60, 1, 798–801 (2021)
東北大学プレスリリース「強力な酸化・ニトロ化剤 五酸化二窒素を空気から電気的に合成することに成功」

論文情報

タイトル: Utilizing plasma-generated N2O5 gas from atmospheric air as a novel gaseous nitrogen source for plants
著者: Taro Yamanashi, Shouki Takeshi, Shota Sasaki, Keisuke Takashima, Toshiro Kaneko, Yasuhiro Ishimaru & Nobuyuki Uozumi*
*責任著者: 東北大学工学研究科バイオ工学専攻 魚住 信之
掲載誌: Plant Molecular Biology 114,35 (2024)
DOI: 10.1007/s11103-024-01438-9

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 教授 魚住 信之
TEL:022-795-7280
E-mail:uozumi@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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