葉柄の伸長を介して植物の競争力を高める鍵分子を発見

―謎だったK+チャネルの機能を解明―

2026/09/03

【工学研究科研究者情報】
大学院工学研究科バイオ工学専攻 教授 魚住 信之
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 植物のK+チャネル(注1)AKT5の輸送活性の検出に初めて成功しました。
  • AKT5は植物の葉柄(注2)を伸長させる機能をもつことが分かりました。
  • 農作物を高密度で効率的に栽培する技術への手がかりになります。

概要

植物の三大栄養素の1つであるカリウム(K)は、K+チャネルを介して植物体内に吸収・循環されます。モデル植物シロイヌナズナには9種類のK+チャネルが存在しますが、そのうちの1つAKT5はその遺伝子の存在がわかってからの30年間、輸送活性と生理的機能は不明のままとなっていました。

東北大学大学院工学研究科 魚住信之教授、村岡勇樹助教らのグループは同大学大学院生命科学研究科、生理学研究所、東京科学大学、東京農工大学などとの国際共同研究により、AKT5が特定の酵素による活性化を受けてK+輸送活性を発揮することを発見しました(図1)。また、クライオ電子顕微鏡(注3)によりAKT5の分子構造を決定し、活性化のメカニズムを明らかにしました(図2)。さらに、AKT5は植物の葉柄に集中して存在していました。AKT5を欠損させた植物は、葉柄が短くなり、密植条件で成長が低下しました(図3)。AKT5は高密度環境の植物の生存競争力を高める鍵分子と考えられます。今後、AKT5の活性制御メカニズムのさらなる解明により、農作物の生産性を維持しつつ高密度栽培を可能にする技術開発への貢献が期待されます。

本成果は、2026年9月3日午前3時(日本時間)に科学誌Science Advancesに掲載されました。

本研究は、東北大学大学院工学研究科の村岡勇樹助教、小林俊介大学院生、真砂歩大学院生、Ellen Tanudjaja特任助教、寺島照太大学院生、清水川晴人大学院生、山梨太郎大学院生(現石川県立大学助教)、齋藤俊也学術研究員、宮本敦史技術補佐員、加藤恵技術職員、佐藤奏音特任助教(現京都大学助教)、辻井雅助教、石丸泰寛准教授(現東京大学准教授)、魚住信之教授が主体となり、ワーヘニンゲン大学(オランダ)のLisa Oskam博士研究員、Ronald Pierik教授、生理学研究所の立山充博准教授、久保義弘教授、東北大学大学院生命科学研究科の田中良和教授、横山武司助教(現北海道大学准教授)、井島寛基大学院生、田中深雪技術補佐員、東京科学大学生命理工学院生命理工学系の古田忠臣助教、東京農工大学の高瀬緋奈乃大学院生、同大学大学院農学研究院生物システム科学部門の梅澤泰史教授、セビリア大学(スペイン)のFrancisco J. Quintero教授、CSIC(スペイン)のFrancisco Rubio教授、ミュンスター大学(ドイツ)のJӧrg Kudla教授、沖縄工業高等専門学校の伊東昌章教授との共同研究で行われました。

研究の背景

カリウム(K)は、窒素(N)・リン(P)と並んで植物の三大栄養素の1つであり、植物の多様な生理現象(細胞の伸長、光合成、浸透圧の調節など)に必須の物質です。植物はK+チャネルという分子を介して、土からのK+の吸収や体内のK+の循環を行っています。モデル植物シロイヌナズナには合計9種類の主要なK+チャネルが存在しており、1990年代から世界中で精力的に研究が行われてきました。しかし、そのうちの1つAKT5と呼ばれるK+チャネルホモログ(注4)は、そもそもK+を輸送することができるのか、植物内でどのような機能をもつのかが分かっておらず、30年以上の謎として残されていました。

今回の取り組み

本研究グループは、AKT5のK+輸送活性の検出を動物細胞発現系で試みました。当初は活性を検出できませんでしたが、リン酸化酵素を導入することで、AKT5のK+輸送活性を初めて検出することに成功し、AKT5は細胞内にK+を取り込む性質をもつことが分かりました(図1)。AKT5の特定のアミノ酸にリン酸基(注5)が結合することで、AKT5が活性化することが証明されました。

AKT5の活性化メカニズムの理解を深めるために、クライオ電子顕微鏡を使ってAKT5の分子構造を解析しました。その結果、AKT5は機能活性を示す既知のK+チャネルと非常によく似た構造をとることが分かりました。さらに、403番目のアスパラギン酸をアラニンに置換すると、分子構造が大きく変化し、リン酸化を受けなくてもK+輸送活性を示すようになりました。したがって、AKT5は通常時は不活性構造をとっていますが、リン酸化に伴って403番目のアスパラギン酸周辺の構造が変化して、K+を輸送する構造にかわることが示されました(図2)。

植物においてAKT5は、葉と茎をつなぐ細長い柄「葉柄」に発現しており、AKT5の欠損株では葉柄が短くなることが確認されました(図3A)。葉柄は、葉を適切な位置に保つことで日光の捕捉効率を高めることから、植物が密植した状況では重要になります。AKT5の欠損株を密植させると、通常の植物に比べて成長が妨げられ、サイズが小さくなることが分かりました(図3B)。以上により、AKT5は葉柄の細胞にK+を取り込むことで細胞浸透圧の上昇による細胞伸長を促進し、葉柄を伸ばす役割を担うことが示唆されました。

今後の展開

AKT5は、高密度栽培における植物の競争力を高める鍵となる分子です。AKT5の植物内での機能をより深く理解するとともに、その活性を自在に制御できるようになれば、農作物の生産性を下げることなく高密度栽培が可能になると考えられます。世界的な人口増加や農耕地不足といった食料安全保障上の課題解決に向けて、本成果が重要な手がかりとなることが期待されます。

また、セロリや小松菜などの野菜では、葉柄が重要な可食部となります。これらの植物のAKT5活性を調節することで、可食部の大きさや食感をニーズに合わせて自在に改良できる可能性も秘めています。


図1. リン酸化酵素によって生じるAKT5のK+電流
K+は電気を帯びているため、細胞内に輸送されると電流として観測される。

図2. AKT5の分子構造(四量体)

図3. 野生株とAKT5欠損株の葉柄(A)と密植環境での成長(B)。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP21KK0268、JP22K19121、JP23K13862、JP24K23201、JP24K08709、JP24H00295、JP24H02253、JP24H00495、JP25K18168)、オランダ科学研究機構(Vici 865.17.002)、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業(BINDS)(JP22ama121038、サポート番号6480)の支援を受けました。また、東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業の支援を受けました。

用語説明

(注1)K+チャネル

カリウムイオン(K+)の生体膜の通過を担うタンパク質。K+の細胞吸収・排出を行う。

(注2)葉柄

葉と茎をつなぐ細長い柄の部分。ほうれん草や小松菜などの野菜では、葉を支えている根元の細長い部分(茎のように見える部分)がこれにあたる。葉柄が伸びることで、葉が高い位置に持ち上げられ、より多くの日光を受けることができる。

(注3)クライオ電子顕微鏡

タンパク質などの微小な分子の立体構造を原子レベルで観察できる最先端の装置。試料を超低温(約マイナス180℃)で急速に凍結し、電子線を当てることで分子の「かたち」を直接観察することができる。2017年にノーベル化学賞の対象となった技術であり、近年は新薬開発などにも活用されている。

(注4)ホモログ

異なる生物種間または同一生物内で、共通の祖先から進化した、構造や機能が似ているタンパク質や遺伝子。

(注5)リン酸基

リンと酸素からなる化学的な部品(-PO42−)。タンパク質にリン酸基が結合する「リン酸化」という反応は、タンパク質のスイッチをオン・オフするような役割を果たす。リン酸化によってタンパク質の形が変わり、機能が活性化または抑制されることがある。

論文情報

タイトル:AKT5 is a bona fide potassium channel and controls petiole growth in Arabidopsis
著者:Yuki Muraoka, Shunsuke Kobayashi, Lisa Oskam, Michihiro Tateyama, Ayumu Masago, Yoshikazu Tanaka, Takeshi Yokoyama, Tadaomi Furuta, Hinano Takase, Ellen Tanudjaja, Shota Terashima, Haruto Shimizukawa, Taro Yamanashi, Shunya Saito, Hiroki Ijima, Miyuki Tanaka, Atsushi Miyamoto, Megumi Kato, Kanane Sato, Masaru Tsujii, Taishi Umezawa, Francisco J. Quintero, Francisco Rubio, Jörg Kudla, Masaaki Ito, Yoshihiro Kubo, Yasuhiro Ishimaru, Ronald Pierik, and Nobuyuki Uozumi*
*責任著者:東北大学 大学院工学研究科 バイオ工学専攻 魚住信之
掲載誌:Science Advances(オープンアクセス)
DOI:10.1126/sciadv.aeh7630

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科 バイオ工学専攻 教授 魚住 信之
TEL:022-795-7280
Email:uozumi@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
Email:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
ニュース

ニュース

ページの先頭へ