2017年IEEEマイルストーン東北大学に献呈 虫明康人名誉教授のアンテナ研究を歴史的偉業として認定

2017/07/20

【発表のポイント】
  • IEEEが東北大学にIEEEマイルストーンを献呈。東北大学としては2度目の認定。
  • 虫明康人名誉教授のアンテナ研究を歴史的偉業として評価したことによる認定。
【研究概要】

この度、東北大学は虫明康人東北大学名誉教授のアンテナ研究が歴史的偉業として評価されたことにより、IEEE マイルストーン注1を献呈されることとなりました。

IEEEマイルストーン(アイトリプルイー マイルストーン)は、IEEEが電気・電子技術やその関連分野における歴史的偉業に対して認定する賞です。これに認定されるためには、25年以上に亘って世の中で高く評価を受けてきたという実績が必要です。東北大学は1995年6月に 指向性短波アンテナ<通称:八木・宇田アンテナ>(1924年) の研究成果に対するマイルストーン認定以来の2度目の認定となります。

受賞のタイトルは「アンテナにおける自己補対の原理と虫明の関係式の発見、1948年」であり、タイトルにあるように、電波を放射し受信するアンテナに関する業績に対する認定です。通常良く用いられるダイポールアンテナや八木・宇田アンテナなどのアンテナは、周波数が変化するとその特性も大きく変化するため、周波数が変わるとアンテナも交換する必要があります。これに対して、周波数が変化してもその特性が変化しないアンテナは広い周波数で動作するので、広帯域アンテナと呼ばれています。図に示すように金属板の部分と金属がない穴(スロット)の部分の形状が同じであれば、アンテナの特性を表す入力インピーダンスという特性が周波数に無関係に一定となるこという理論が虫明の関係式であり、図の様な形状のアンテナは自己補対アンテナと呼ばれ、代表的な超広帯域アンテナです。このアンテナは様々な構造が考えられるので、自己補対の原理は多くの超広帯域アンテナの設計の基本原理となり、テレビジョン放送受信、ブロードバンド無線通信、電波天文、携帯電話などに応用されてきました。

【詳細な説明】

この度認定された研究成果は「周波数及び形状に無関係に、入力インピーダンス注2が常に60π≒188 [Ω] となる画期的な特性のアンテナを1948年に発見して、電気学会誌に発表した著者 虫明康人東北大学名誉教授(現在96歳、1948年 本学大学院在学中)の研究成果によるものです。虫明氏は後に自己補対アンテナと命名しました。そしてインピーダンスの式は「Mushiake Relationship」と呼ばれるようになりました。

自己補対アンテナとは、無限に広い完全導体板の2分の1で構成された任意形状のアンテナで、その構造の穴に相当する部分の形状が、板の部分の形状と完全に同形であるようなアンテナです。自己補対アンテナは、使用周波数およびその形状に無関係に入力インピーダンスが一定となります。併し、有限な大きさで切断されても、実用上定インピーダンス性が保たれる方法が実験的に確立されております。このような形状を含めて、2端子の場合の例が図示されております(図)。

虫明氏は更に自己補対アンテナの原理が多端子の複雑な高位構造の自己補対アンテナでも成り立つことを発見しました。そのような場合には、それらの定インピーダンス値はその複雑さにより異なった値となりますが、驚いたことに自己補対構造のアンテナは使用周波数およびその形状に無関係に一定のインピーダンス特性を持っていることが明らかになりました。これを包括的に総称して「自己補対の原理」(Principle of self-complementarity、或いはMushiake Principle)と呼ばれています。


※無限に広がっている構造を切断して、給電点に近い部分だけを図示
図 2端子自己補対構造の自己補対アンテナの例

このように自己補対アンテナには、定インピーダンス性がありますので、広い周波数帯に亘って、給電線との整合が保たれ、超広帯域アンテナとして働くという特徴があります。更に、諸特性の中で注目されているのは、周波数に無関係に、実用上全方向性になる場合もあることです。また、自己補対の形状特徴さえあれば、様々な形にする事が可能であることから、このアンテナは幅広い分野に応用されています。特に超広帯域で送受信するブロードバンド無線通信の分野では必需品であります。携帯機器の様な小さい機器から、宇宙からの電波の受信などの大きなアンテナシステムまで多数の実用例があります。

当初、自己補対アンテナはその意義が一部の専門家の中で誤解されました。その中でも対数周期アンテナ(Log-periodic dipole array,或いはLPDA)との誤解は虫明氏を長年苦しめた問題でした。対数周期アンテナは使用可能な周波数帯域が広く、鋭い指向性があり、多数のエレメントを持つアンテナです。しかし、このアンテナの広帯域性は、対数周期形状自身によって生ずるのではなく、実は自己補対アンテナの定インピーダンス性に基づいて誘導されたものであることが判明しました。すなわち対数周期アンテナは、自己補対アンテナに変形近似をほどこした変形近似自己補対アンテナの一特殊系とみなせるのです。対数周期アンテナと違い、自己補対アンテナの原理は更に多くの形状のアンテナの特性を説明する一般的な原理であることが判明しています。

以上のように自己補対アンテナの原理がブロードバンドの無線テレコミュニケーションの分野での大きなイノベーションとなり、その効果が電気・電子・情報・通信分野における産業の発展へと波及した事によって、多大な貢献をした歴史的偉業として認められました。

【用語解説】

注1. IEEEマイルストーン:
世界最大の技術者団体、電気電子技術者協会(IEEE=The Institute of Electrical and Electronics Engineers 、本部米国)は電気・電子技術分野における歴史的な偉業をたたえる「IEEEマイルストーン」を1983年に制定しました。マイルストーンは開発から25年以上に亘って世の中で高く評価を受けてきたという実績のある技術が対象で、これまで世界で177件(本年5月の時点)が認定されています。古くは18世紀のベンジャミン・フランクリンの業績(避雷針の発明など)や19世紀のエジソンの研究所(電話・電球や発電機などの発明)、20世紀では世界初のデジタル電子計算機「アタナソフ&ベリー・コンピュータ」(1939年、米アイオワ州立大学)、「インターネット誕生の地」(1969年、米カリフォルニア州立大学)などがあります。

注2. 入力インピーダンス:
アンテナの入力インピーダンスとは,ある周波数の電力を送り込む時にアンテナが示す負荷インピーダンス(Ω)です。一般的には周波数に依存して変化する量です。自己補対アンテナでは周波数によらず一定であるので、超広帯域で使用出来るという点が特別な特性です。例えば、共振型アンテナを使用して、広い周波数帯域の電波を送受信するような場合には、それぞれの周波数に対応する多数のアンテナを使用しなければなりません。

【IEEE 仙台支部から】

東北大学名誉教授 虫明康人先生 の研究成果に基づいて、IEEE Milestoneが東北大学に献呈されることが決まりました。受賞のタイトルは、“Discovery of the Principle of Self-Complementarity in Antennas and the Mushiake Relationship, 1948” (“アンテナにおける自己補対の原理と虫明の関係式の発見,1948”) です。その本文は、下記の通りです。

In 1948, Prof. Yasuto Mushiake of Tohoku University discovered that antennas with self-complementary geometries are frequency independent, presenting a constant impedance, and often a constant radiation pattern over very wide frequency ranges. This principle is the basis for many very-wide-bandwidth antenna designs, with applications that include television reception, wireless broadband, radio astronomy, and cellular telephony.

「日本語訳」
東北大学の虫明康人教授は1948年に自己補対構造のアンテナが、周波数に無関係に、一定のインピーダンスを持ち、また、極めて広い周波数帯域において、しばしば一定の放射指向性を持つことを発見した。この原理は多くの超広帯域アンテナの設計の基本原理となって、テレビジョン放送受信、ブロードバンド無線通信、電波天文、携帯電話などに応用されてきた。

【お問い合わせ】
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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