東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2004/11/19

応用物理学専攻の小池洋二教授らは、新しい電子注入型銅酸化物高温超伝導物質の発見をしました。


東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻
http://www.apph.tohoku.ac.jp/low-temp-lab/index.html
梶田徹也(大学院生D1)
加藤雅恒(助教授)
小池洋二(教授)


【1.概要】

層状ペロブスカイト型銅酸化物Sr2CuO2Br2に対して、電気化学法を用いて、Li(リチウム)をインターカレーション(導入)することにより、超伝導転移温度Tc=8Kの新超伝導LixSr2CuO2Br2の合成に成功しました。この成果が、Japanese Journal of Applied Physicsvol.43(2004年) No.11B(11月15日号)L1480-1481ページにて掲載されました。


これまでに発見されている数十種類にのぼる銅酸化物高温超伝導体の多くはホール注入型であり、電子注入型は2種類のみであった。また、高い超伝導転移温度を有するホール注入型超伝導体と比較的低い超伝導転移温度を有する電子注入型超伝導体を比較する上で、結晶構造が異なるという問題点が存在してきた。この新超伝導体は、第3の電子注入型超伝導体であり、かつ、典型的なホール注入型超伝導体であるLa2-xSrxCuO4と同じ結晶構造を有する。そのため、両者の物性を比較することは、高温超伝導発現のメカニズムの解明に有力な情報を与えると期待される。



【2.詳細】

銅酸化物高温超伝導体の母体は絶縁体です。これを超伝導体にするには、母体に、適当な量の電子を注入するか、ホールを注入する(電子を取り去る)かを、しなくてはなりません。これまでに発見された数十種類にのぼる銅酸化物高温超伝導体の多くはホール注入型であり、電子注入型は(Ln,Ce)2CuO4と(Sr,Ln)CuO2(Ln:ランタノイド)の2つの種類しかなく、物性研究はホール型に比べ遅れています。この新超伝導体は、第3の電子注入型銅酸化物高温超伝導体として注目されることでしょう。


また、これまでに合成された電子注入型銅酸化物超伝導体の超伝導転移温度Tcは、ホール注入型のTcに比べ、比較的低いです。両者の物理的性質を調べ、そのTcの違いの原因を明らかにすることは、高温超伝導発現のメカニズムを解明する上で、非常に重要です。しかし、これまでは、ホール注入型と電子注入型では結晶構造が異なるという問題点が存在してきました。 この新超伝導体は、典型的なホール注入型超伝導体であるLa2-xSrxCuO4やCa2-xNaxCuO2Cl2、Sr2CuO2F2+xと同じ結晶構造を有します。そのため、両者の物理的性質を比較することは、高温超伝導発現のメカニズム解明に有力な情報を与えると期待されます。


今回の発見の要因は、一つには、電気化学という強力な還元力を利用することにより電子キャリアの注入が可能になったことです。また、これまでの経験則から、Cu-O面のCuの上下に陰イオンがあるときはホール型、無いときは電子型と考えられてきました。それで、ホール注入型超伝導体La2-xSrxCuO4、Ca2-xNaxCuO2Cl2、Sr2CuO2F2+xと同じ結晶構造を有するため、今回着目したSr2CuO2Br2もホール注入型であると考えられていました。しかしながら、Sr2CuO2Br2では、La2-xSrxCuO4、Ca2-xNaxCuO2Cl2、Sr2CuO2F2+xに比べて、Cu-O距離が長い、すなわちCuから陰イオンであるOが離れているため、負の電荷をもつ電子がCuに来やすいので、電子注入型だと考えた点が発見の2つ目の要因です。



【3.論文】
論文名:
New Electron-Doped Superconducting Cuprate LixSr2CuO2Br2(新電子注入型銅酸化物超伝導体LixSr2CuO2Br2
Japanese Journal of Applied Physicsvol.43(2004年) No.11B(11月15日号) L1480-1481ページ

著者名:
梶田徹也(大学院生D1)、加藤雅恒(助教授)、鈴木尊士(卒業)、伊藤隆(助教授)、野地尚(助手)、小池洋二(教授)

参考:
JJAP Express Letters
JJAP(Japanese Journal of Applied Physics)は、応用物理学会が刊行する英文論文誌で、世界50カ国以上で広く読まれており、海外でも高い評価を得ている英文論文誌です。Full PaperとShort NoteからなるPart1を年20回程度、速報性を重視するLettersのみからなるPart2を月2回程度発行しています。また,インパクトが極めて大きく速報性が強く要求されると判断された論文は、Part2にExpress Lettersとして迅速に出版されます。

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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