東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2005/02/17

ナノメカニクス専攻の厨川常元教授の研究グループがエナメル質表面へのハイドロキシアパタイト膜の高速成膜に成功しました

東北大学大学院工学研究科ナノメカニクス専攻の厨川常元教授の研究グループは、同大歯学研究科佐々木啓一教授、鈴木治教授らと共同で、室温、大気圧環境下でハイドロキシアパタイト(HA)微粒子を、ヒトの歯の表面(エナメル質)に高速で衝突させることにより、HA厚膜を成膜することに世界で初めて成功した。本手法は、新しい歯質の再構築を可能にするもので、虫歯治療や予防歯科の分野において、未来の新しい治療法の可能性を示すものとして期待されている。なお本研究は、東北大学機械系で現在3つ走っている文部科学省21世紀COEプログラムの一つ、「ナノテクノロジー基盤機械科学フロンティア」(プロジェクトリーダー庄子哲雄教授)における融合研究プロジェクトの一つ。



【背景】
現在,齲蝕(虫歯)の治療は,齲蝕部を機械的に切削除去し,その欠損部(窩洞部)にレジンなどを充填,あるいは金属,セラミックス等で作製したインレーを合着(接着)して修復することにより行われている。しかしこれらの人工修復物と歯質との熱的あるいは機械的性質の違いや,細菌等の侵入により,経年的に人工修復物が脱落する場合が多い。本研究の最終目的は,




  1. 人工修復物を歯質と同じハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite;HA)とすることにより,元の歯質と同じ状態に再構築し,正常な歯質に戻す

  2. 歯質・修復物界面の機械的,組織的相違を傾斜構造とすることにより改善し,これまでにない強固な全く新しいインターフェース創成を提案する




ことの二つである。



【開発した装置】
微粒子を約100Hzで間欠的に,かつ微小量を定量噴射することができる新しい噴射原理を考案すると共に,歯科用デジタル式パウダージェットデポジション装置を株式会社仙台ニコンと共同で開発した。HA微粒子(平均粒径3µm以下)を,内径0.8mmのノズルから基板(ヒトエナメル質)へ100〜200mµsで噴射することが可能である。噴射条件は,ノズル・歯質間距離1.0mm,噴射時間1秒,加速圧力0.4MPa,供給圧力0.8MPa,室温とした。



【HA膜の成膜結果】
エナメル質表面に衝突し,付着したHA粒子は密に充填されており,粒子形状は原粒子より微細になっていた。HA膜とエナメル質の界面は密着しており,1秒の噴射で成膜されるHA厚膜の最大高さと平均高さは,それぞれ5µm,3µmであった。一方,HA膜のビッカース硬度は600〜700で,通常のエナメル質の硬さと同等であった。また歯ブラシによる耐摩耗実験の結果,良好な付着強度と摩耗強度を有していることがわかった。



【応用展開】
本実験で提案するパウダージェットデポジション法により,ヒトエナメル質上へのHA厚膜の形成が可能であることを明らかにした。本研究成果は,上記以外にもHA厚膜ポーラス構造へのミネラル沈着による歯質の再石灰化,さらには歯質再構築へと応用展開可能である。また虫歯の治療のみならず,HA膜によって健常歯をコーティングすることにも使用可能である。この手法は知覚過敏の処置や,虫歯の予防シーラントとしての利用が期待されている。



【成果発表】
2005年3月9〜12日にボルチモア(USA)で開催予定の,IADR(国際歯科研究学会)で発表予定。

図1 パウダージェットデポジション法による新しい歯質の構築
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図2 成膜後の歯質断面
※画像クリックで拡大表示
【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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