東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2005/03/31

電子工学専攻の宮下助教授等の研究グループは液晶の3つの粘性係数を測定する世界初の装置を開発しました。

【1. 研究の背景】
これまでの液晶テレビでは、液晶の応答速度が十分でなかったため、図1のように動画像がぼけるという問題がありました。この問題を解決するためには、液晶の応答速度を上げればよいのです。
この応答速度に大きな影響を与える、材料の善し悪しを示す重要な値が液晶の粘性係数です。通常の液体ではその値は一つですが、液晶の場合、分子の並び方により原理的に四つの独立な値が存在することが理論的に明らかにされています。
この測定方法として、従来は、極めて高度な実験技術と大量の液晶材料を必要とする方法か、精度の低い簡単な測定法しかなく、事実上、測定できないという状況でした。このため、理論的な解明は進んでいましたが、理論と実際の現象の橋渡しができず、科学的な検討や研究者間の議論ができないという状況でした。



【2. 新しい測定装置】
東北大学大学院工学研究科の宮下哲哉助教授は、高性能液晶ディスプレイの研究の過程で、高速化に必要な液晶の3つの粘性係数(γ1,η1,η2) を測定する方法を確立し、世界初の実用化測定装置の開発を行いました。装置の外形を図3に示しました。この装置は、電気光学特性を2回測定するだけという東北大学で確立した新しい原理を用いております。これにより、一般の研究者でも簡単に安全に正確に測定でき、必要な液晶材料も1万分の1グラム程度という極微量で済むという大きな特長があります。このため、世界標準器になりうる測定装置として現在、商品化を予定しています。

実現した仕様は以下の通りです。




  1. 装置  : 液晶粘性係数測定装置 (世界初の実用化装置)

  2. 測定項目: 液晶の3つの粘性係数の測定 (世界初の測定項目)

  3. 測定材料: 1万分の1グラム程度の量 (ごく微量で、実用的)

  4. 手順  : オンとオフを各1回ずつの自動測定 (簡単)

  5. 測定値 : 自動計算で、3つの粘性係数が求められる。

  6. 精度  : 高精度 (設計に必要な値)




【3. 本装置による将来の発展】
液晶の3つの正確な粘性係数が測定できると、理論的な解析が出来るため新しい液晶材料や新しいディスプレイの研究・開発の速度が向上します。これにより、近い将来、動画像がぼけるというこれまでの液晶テレビに生じていた問題の解決が期待されます。また、低温でも高速に動作する液晶の開発にも利用できるため、冬の屋外で使えるディスプレイも実用化できる見通しが得られています。
また、更に進んだ高速性を利用することにより、時分割カラー液晶ディスプレイや、時分割立体液晶ディスプレイなど高性能のディスプレイへと、次世代の新ディスプレイへの新しい展開に欠かせない装置と考えられます。



【4. 社会的インパクト】
近年、液晶ディスプレイは1兆円以上の成長産業として注目され、日本は大型液晶ディスプレイの実用化の先鞭をつけ、世界で最初に産業化を行ってきました。しかし、世界の資本と企業が参入し、現在は外国の企業に圧されて苦戦を強いられています。幸い、日本の技術力と科学的な基礎力は世界一の実力を維持しているため、再興の種はまだ残されていると考えております。日本の再興を進めるために、材料から応用製品までを一貫して科学的な解析
を行えるようにし、日本初の超高性能・超高品位の次世代液晶ディスプレイの実現を目指す上で、本測定装置は一つの強力な手段となります。



【5. 実用化に際して】
この測定装置は、実用的な方法として国内特許及び国際特許を申請済みです。また、現在、(株)日本マイクロニクスが実用化に向けた製作を行っており、今年の秋以降に商品化の予定です。なお、この成果の一部は青森県の地域結集型共同研究事業と連携して実施しているものであり、本年に開催される国際会議で発表いたします。



【6. 本装置の研究・開発・実用化の主要関係者】



  • 東北大学 大学院工学研究科 教授 内田龍男

  • (財)21あおもり産業総合支援センター 研究員 岸本匡史、柳沼寛教

  • (株)日本マイクロニクス 統括主任技師 工藤司(代表者)

                                           (敬称略)

図1 動画像とぼけ
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図2 液晶分子の並びによって異なる粘性係数
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図3 開発した液晶粘性係数測定装置
(株)日本マイクロニクス製
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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