東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2005/06/27

土木工学専攻の澤本教授等の研究グループは水環境から生息地を抽出しホタル生息適地地図を作成しました。

東北大学大学院工学研究科土木工学専攻の澤本正樹教授と環境科学研究科の風間聡助教授のグループは,名取川流域の水循環シミュレーションを行い,水深,流速のデータを地図上に反映させ,従来から整備されている土地利用,植生,標高,勾配等のデータと併せて地理情報システムに統合させた.その上で,名取川上流域の14箇所のホタル生息域において地理情報を抽出して,流域内のホタル生息条件を割り出した.この適地の度合をポイントによって表現し,名取川流域全域を数値地図化した.ポイントの高い地域にはおおよそホタルが確認され,生息適地地図として利用できることが確認された.本手法は,生物の生息条件から見た水環境の評価を可能にするものであり,従来のBODやCOD等の地点データから流域環境を見るのではなく,広域の視点で流域環境を見ることができる.このような生息地図を水循環シミュレーションを用いて評価したのはわが国では初めてである.



【背景】
水環境を評価するには,従来から川のある地点において,水質調査や生物調査によって行ってきた.しかし,一点のデータから流域全域の環境を評価することには無理があった.流域内の土地利用や地理は多様であり,地域毎に個性がある.従来のようなBODや生物指標のようなものは,一般住民には理解しにくく,簡易で分かりやすい指標が望まれていた.



そこで,水環境を表す代表生物であるホタルの生息しやすさを地図上に表すことによって全く新しい流域水環境地図を作成した。



【開発した装置】
本手法は2つの技術が利用されている.一つは流域の水循環(水の移動)を表す数値シミュレーションである.これは名取川流域を細かに細分し,雨,流下,浸透,蒸発等を表現して水の動態を表したものである.洪水や渇水の予測にも利用できる.もう一方は,GIS(地理情報システム)であり,これは様々な数値地図情報を統合したものである.GISによって,異なるデータを同一システム上で解析することが可能である.GISによって取り出された様々なホタルに関するデータを統計解析することによって,生息しやすさをポイント化し,流域内全域を250m毎にこれを地図化した.



【ホタル生息域の推定結果】
14地点のホタル生息域の情報をもとに,名取川全域にホタル生息適地地図を作成した結果,ホタル生息域として最高ポイントの地域がさらに数多く確認された.これらほとんどの地域でホタルの生息が確認され,本手法の正しさが確認された.また,次点の点数でも数地域でホタルの生息が確認された.こうしたポイントの高い地域は,一般に言われるホタルに適した水環境をよく表現しており,水環境の評価として,この地図を利用できることが確認された.



【応用展開】
本手法はホタルだけでなく,水環境に関する他の生物にも適用できる可能性がある.他の種を組み合わせることによって,生物多様性の視点から水環境マップの作成が可能である.



従来の環境アセスメントに比べて数値で表現しているため,開発による影響を定量的に把握できる.また,開発と保全の適地を容易に判断できる.これは,開発だけでなくある種の生息域回復に必要な情報を知ることも可能である.地図情報があれば世界のどこでも生息適地地図を作成することは可能であり,より広域な水環境に生かされる可能性がある.



【成果発表】
2004年12月に開かれた国際環境水理学会で一部発表された.

図1 名取川流域のホタル生息適地分布図。数字が大きいほど生息適地である。
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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