東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2005/07/05

都市・建築学専攻の持田助教授等の研究グループは地域の気候特性に応じた最適なヒートアイランド対策の選定手法を開発しました。

東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻の持田灯助教授の研究グループは,気候の数値シミュレーション技術を利用して、各都市、各地域の気温の上昇をもたらす種々の要因の相対的寄与率を定量化し、これにより各地域の気候特性に応じた最適なヒートアイランド対策を合理的に選択する手法を提案した。そして、この成果を本年6月にクロアチアで行われた「DUBROVNIK CONFERENCE ON DEVELOPMENT OF ENERGY, WATER AND ENVIRONMENT SYSTEM, DUBROVNIK」における招待講演で発表した。



本研究は、本学工学研究科先端学術融合工学研究機構の都市再生・環境工学研究ユニットの研究プロジェクト「地域の環境ポテンシャル評価とこれに基づく高環境効率型環境デザイン(プロジェクトリーダー:吉野博教授)」の活動の一環として行ったものである。



【背景】
現在、ヒートアイランド(都市の温暖化)が深刻化しており、首都圏、近畿圏はもちろん仙台などの地方都市においても大きな問題となっている。これに対して、緑化、高反射性の塗料(日射反射率の高い塗料)の利用、海や川等からの涼風の市街地への導入(風の道の計画)等の様々な対策の効果が検討され、実際に試みられている。これら各種のヒートアイランド対策の効果は、主として東京や大阪等の一部の大都市の気候条件下におけるシミュレーションや測定により検討されており、それを参考として多様な気候条件下の全国各都市におけるヒートアイランド対策が進められようとしている。しかし、各都市の各地域に適したヒートアイランド対策は各地域の気候特性により異なるはずである。本研究は、?最新の気候数値解析技術を利用して、各都市間や都市内部の地域間の気候特性の差を定量的に明らかにし、各都市、各地域の気温上昇に大きく寄与する要因を抽出し、?これに基づき最適なヒートアイランド対策を選択する手法を提案したものである。



【ともに太平洋沿岸部に位置する規模の異なる3都市(東京、仙台、原町)を対象とした気候数値シミュレーション】
本研究では、東京首都圏、仙台市、福島県原町市を対象とした気候数値解析を行った。図1は8月初旬晴天日の13時の高さ10mにおける風速分布、図 2は同時刻の高さ10mにおける気温分布に関する3都市の比較である。図1から、夏の晴天日の日中には3都市とも海風が内陸部へ流入しているが、図2から分かるように、各都市で形成される高温域の広さが異なっており、特に東京首都圏では高温域が非常に広範囲に及んでいる。



【3都市で異なる最適なヒートアイランド対策】
各都市で最適なヒートアイランド対策を選定するために、本研究では気候数値シミュレーションの結果を用いて都市空間の熱収支分析を行った。図3に都市空間の熱収支分析のイメージを示す。都市空間の熱収支分析とは、着目する評価空間に対してどのような要因(地表面からの発熱、空調や自動車からの人工排熱、海風による冷涼な空気の流入など)でどのくらいの熱が流入するか、または熱が流出するかを定量的に示し、全体の収支を評価する手法である。これにより、着目する評価空間の気温上昇、または気温低下に大きく寄与する要因を抽出し、最適なヒートアイランド対策を合理的に選定することが可能となる。



熱収支分析の結果の一例を図4に示す。図4中の+は着目する評価空間への熱の流入(気温を上昇させる効果)を、−は熱の流出(気温を低下させる効果)を意味している。よって、着目する評価空間に流入、流出するすべての熱量の総計である収支(蓄熱量)の正負は気温の上昇・低下と対応する。3都市の中心部とも海風による冷涼な空気の流入が気温低下に大きく寄与しており、地表面からの発熱や人工排熱等による熱の流入が気温上昇に寄与している。3都市を比較すると、各種熱的要因の気温変化に対する相対的寄与度は各都市中心部によって異なる様子が分かる。つまり、東京駅周辺では地表面発熱・人工排熱・海風の効果、仙台中心部では地表面発熱・海風の効果、原町中心部では海風の効果が気候形成に与える影響が大きい。以上の結果から、図5のように東京、仙台、原町の各都市の中心部において優先されるべきヒートアイランド対策手法が異なることが定量的に示された。



【応用展開】
本研究で提案する熱収支分析手法を応用することにより,着目する領域に対して最適なヒートアイランド対策を合理的に選定する手法を提案した。この熱収支分析をさらに応用して、一つの都市内の各地域ごとの気候特性を定量化しMap化する手法の開発を進めている。これにより、一つの都市内の各地域に最適なヒートアイランド対策手法をきめ細かく選定することが可能となる。



【成果発表】
2005年6月にクロアチアで開催された,「DUBROVNIK CONFERENCE ON DEVELOPMENT OF ENERGY, WATER AND ENVIRONMENT SYSTEM, DUBROVNIK」における招待講演で発表した。

図1 図2
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図3 図4
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図5
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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