東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2005/07/07

土木工学専攻環境水質工学分野の研究グループはウイルス吸着タンパク質を用いた水中病原ウイルスの新規な検出及び除去技術を開発しました。

東北大学大学院工学研究科土木工学専攻環境水質工学分野の研究グループは,ポリオウイルスに対して特異的な吸着活性を示すウイルス吸着タンパク質(Virus-Binding Protein: VBP)を活性汚泥細菌から分離することに世界で始めて成功した.さらに,社会的な問題となっているノロウイルスやアデノウイルスに対するVBPの分離にも成功している.ポリオウイルスに対するVBPについては,その遺伝子の分離が既に行われ,その遺伝子を用いてVBPを大腸菌により大量合成することにも成功した.このVBPを水中病原ウイルスに対する特異的な吸着材として用いる事で,全く新しいウイルスの検出技術や除去技術の開発が可能となった。



【背景】
水利用起因の病原ウイルスによる感染症が我が国のみならず世界の国々で発生している。特に発展途上国においては多くの幼い命が奪われ、途上国社会の持続的な発展に取って大きな障害となっている.病原ウイルスによる水環境の汚染は社会生活の国際化などの多様化に伴って深刻化する方向へと向かっており、かつ未来の少子高齢化社会の形成は病原ウイルスに対する感染リスクを増加させることとなる.しかしながら、水環境中の病原ウイルス検出には濃縮操作において難があるばかりか、今日の浄水・下水処理プロセスでは水中病原ウイルスの効率的な除去・不活化が困難であるのが現状である.未来社会の水系ウイルス感染症発生リスク低減を実現するためには,新たな水中病原ウイルス検出および除去技術を開発し,その技術を我が国のみならず東南アジア等を含む様々な国々に積極的に導入していくことが必要不可欠である.そのような背景のもと,本研究室では水中病原ウイルスを特異的に捕捉することが可能なVBPを分離することに成功し,このVBPを用いた全く新しいウイルスの検出技術や除去技術の開発を目指している.



【分離に成功したVBP】
VBPの分離にはアフィニティクロマトグラフィを用いたが,その中でポリオウイルス1型の外殻タンパク質の一部を合成したペプチドをリガンドとして用いる方法を,本研究における独自の手法として開発した(図1).その結果,活性汚泥細菌が産出した雑多なタンパク質の中から,水中病原ウイルスに対して高い親和性を持つVBPを分離することに世界で始めて成功した.ヒトのみにしか感染できないウイルスに対して吸着活性を有する細菌タンパク質はこれまで見出されておらず,新たな発見として各方面で評価されている.



また,活性汚泥からのVBP分離に引き続き,活性汚泥細菌からのVBP遺伝子分離及び分離されたVBP遺伝子を利用したVBPクローニングシステムの構築を行った.その結果,二次元電気泳動後のVBPに関してN末端アミノ酸配列を解読することに成功し,その配列を元に活性汚泥細菌DNAライブラリの中からVBP遺伝子を分離することにも成功した.さらに,分離されたVBP遺伝子をタンパク質発現用プラスミドにサブクローニングしたものを用いて大腸菌を形質転換することによりVBPクローニングシステムを完成させた(図2).



【VBPの固定化】
VBPを特異的なウイルス吸着材として用いるために,ガラス担体表面上への固定化手法を構築した.本手法は,ガラス表面をシランカップリング剤で修飾し,架橋剤を用いてVBPを共有結合により担体表面に固定化するものである.ガラスビーズ表面上に固定化したVBPに対してポリオウイルス1型がよく吸着することが確認され,VBPが水中病原ウイルス除去・検出技術において利用可能であることが示された.



【応用展開】
水中病原ウイルスは一般的に希薄濃度で存在するため,これまで検出することすら非常に困難であった.VBPは水中病原ウイルスを特異的に吸着することが可能であるため,本研究で開発した手法によりVBPを固定化した濾材にサンプルを通し,ウイルスを捕捉した上で検出すると言うアプローチが可能である.特異的ウイルス吸着材を用いたウイルス検出技術は存在せず,全く新しい技術を開発できる可能性がある.また,この特異的吸着特性を利用してウイルス除去技術の開発が期待できる.



【成果発表】
ウイルス吸着タンパク質に関する成果については,現在特許申請中である.さらに,それらの成果についてアメリカ微生物学会の雑誌である「Applied and Environmental Microbiology」に掲載されている.

図1 アフィニティクロマトグラフィによるVBP分離の模式図
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図2 大腸菌によるVBP発現及びその利用。 (A) Lane 1, 分子量マーカー;Lane 2,pRSET導入E. coli BL21(IPTG誘導なし);Lane 3,pRSET導入E. coli BL21(誘導あり);Lane 4,pRSET VBP候補遺伝子導入E. coli BL21(誘導なし);Lane 5,pRSET VBP候補遺伝子導入E. coli BL21(誘導あり). (B) 固定化VBPによるウイルス粒子捕捉の模式図.
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【お問合せ】

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