東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2005/10/13

化学工学専攻の米本教授等の研究グループはイオン交換樹脂を固体触媒とした新規なバイオディーゼル燃料製造技術の開発に成功しました。

東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の研究グループ(米本年邦教授、北川尚美助教授ら)は、一般的な水処理に利用されているイオン交換樹脂を固体触媒として油脂とアルコールとのエステル交換反応(50°C、大気圧下)を行い、再生可能な軽油代替燃料であるバイオディーゼル油を製造することに世界で初めて成功した。現在、バイオディーゼル油の製造には均相アルカリ触媒が用いられているが、(1)アルカリが混入した副生成物が生じるためその処理が必要、(2)アルカリとのケン化反応を生じるため原料の酸価を低くする処理が必要、などが製造コスト高や環境負荷の点で大きな問題となっている。本技術は、触媒の生成物への混入がなく、ケン化反応も生じないという特徴を有するためこれまでの問題点を一挙に解決可能とするもので、低コスト化を実現できかつ廃棄物ゼロエミッションの環境調和型製造技術として注目されている。

【背景】
バイオディーゼル燃料(脂肪酸エステル)は、動植物の油脂(トリグリセリド)と低級アルコールとのエステル交換反応(1)式によって合成される。
この燃料は、従来の石油系ディーゼル燃料(軽油)に比べ、生物分解され易い、潤滑性が高い、排ガスがクリーン、など多くの利点を有する。また、環境汚染の一因となる廃食用油からも合成できるため、環境調和型の廃棄物有効利用技術としても注目されている。
現在、国内では廃食用油を原料とした、また、国外では天然植物油を原料とした大型バイオディーゼル燃料製造用プラントが続々と建設されている。これらの製造プロセスでは、エステル交換反応推進のためにKOH、NaOHなどの均相アルカリ触媒が用いられているが、以下のような問題点がある。





  1. 副成するグリセリン中にアルカリ触媒が混入するため、グリセリンを商品化するには混入触媒を分離除去する必要がある。しかし、実際にはこの分離コストが高いため商品化の方法を採らず、アルカリ混入グリセリンを産業廃棄物として焼却処理しており、環境負荷を与えている。

  2. 原料中に不純物として含まれる遊離脂肪酸と触媒であるアルカリとの間でケン化反応が生じ、触媒が消費されてしまい、エステル交換反応の速度が減少する。また、ケン化で生じた石鹸により目的生成物であるバイオディーゼル燃料とグリセリンとの相分離が妨害され、製品燃料収率が低下する。そのため、原料中の遊離脂肪酸含有量を0.5%以下に減じる前処理が必要であり、ここでも脂肪酸が産業廃棄物となる。




【開発した内容】
米本教授、北川助教授の研究グループでは、まず、1.の解決を目的として、不均相固体触媒として陰イオン交換樹脂を用いた油脂とアルコールとのエステル交換反応を取り上げ、多孔性陰イオン交換樹脂を触媒とした場合に50°C、大気圧下でバイオディーゼル燃料が高収率で生成すること、OH-基が溶液中に遊離せずケン化反応を生じないことを見出した。これはイオン交換樹脂をバイオディーゼル燃料製造用触媒とした世界初の成功例である[第10回アジア太平洋化学工学会議にて口頭発表(2004年10月)、特許出願中2004-292212]。さらに、イオン交換樹脂のエステル交換活性は油成分の付着によって劣化するが、弱酸とアルカリ水溶液を組み合わせた洗浄再生処理によって容易に完全回復し、何度でも繰り返し利用できることを明らかにした[第7 回世界化学工学会議にて発表(2005年7月)、特許出願中2005-198200]。さらに、陽イオン交換樹脂はエステル化活性も有することから、これを触媒とした遊離脂肪酸のエステル化を行うことで前処理の必要性を省くと共に、現在除去されている遊離脂肪酸からも目的燃料を合成でき、2.の解決も可能となる。これらの技術を組み合わせれば、効率かつ廃棄物ゼロエミッションの環境調和型連続製造技術を確立することができる。



【他の類似技術との比較】
これまでにバイオディーゼル燃料製造用の不均相固体触媒の開発は盛んに行われており、石灰、クレー、金属酸化物などが次々と提案されている。現在、最も活性が高いものは金属酸化物触媒であると考えられるが、溶液中に活性部位が溶け出してしまう、原料中に含まれる遊離脂肪酸と触媒とのケン化反応が生じるという問題を解決できておらず、その活性は未だ不安定なものである。固定化リパーゼ酵素を用いた方法も報告されているが、高価で活性が低く、不安定な酵素の工業的な利用は容易ではない。近年、液体と固体が共存できる限界の温度・圧力(臨界点)を超えた状態にある超臨界アルコールを用いた無触媒法が注目されている。このプロセスは、一段目で油脂を遊離脂肪酸とグリセリンに加水分解した後、二段目で遊離脂肪酸とアルコールとのエステル化を行うというものである。遊離脂肪酸を除去処理せずに目的燃料へと変換できるものの、高温、高圧の重装な設備を必要とする。
これらの従来・類似技術と比較し、当該グループで提案するイオン交換樹脂を用いた製造法は、比較的安価で活性が安定かつ再生可能であり、反応条件も穏やか、遊離脂肪酸を除去処理せずに目的燃料へと変換可能な優れたものであるといえる。

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エステル交換反応(1)式
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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