東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2006/03/29

バイオロボティクス専攻の田中助教授が毛髪を触ったときの感じ方(感性)を計測できる装置「毛髪触感センサ」を開発しました。

バイオロボティクス専攻の田中真美助教授と資生堂は共同で、毛髪を指で触ったときのヒトの感性(触感)を計測できる装置「毛髪触感センサ」の開発に成功しました。この装置は、指の感覚受容器の中でとくに微細な感触の違いを認識しているパチニ小体(※1)を参考に開発したもので、指で触ったときに感じる感性情報を簡易に定量化できます。

これまでヘアケア商品を使った時に感じる手触り感、仕上がり感は、主に毛髪の物性値(強度、摩擦力等)を機器で測定し、評価していましたが、この「毛髪触感センサ」を用いることで、「さらさら」「しっとり」といった触感を、簡易かつ客観的に評価することが可能となります。

※1)指の感覚受容器のひとつ。0.5〜3mm径程度の楕円形状で、手の指腹などに多く存在する。


化粧品における感性の重要性

化粧品の主な価値には「効果」と「使用感・仕上がり感」があります。「効果」は皮膚や毛髪に直接はたらきかけ、『健やかに保つ』等の価値を、「使用感・仕上がり感」は感性にはたらきかけて、満足感という価値を提供します。ほぼ毎日、皮膚や毛髪に直接塗布する化粧品にとっては、この感性へのはたらきかけはとても重要な要素です。特に毛髪においては、カラーリングによるヘアダメージの深刻化が、「ぱさつき」「きしみ」「ごわつき」など毛髪の触感にも大きく影響しており、ヘアケア商品には触感の満足度向上が強く求められています。


ヘアケア素材・基剤の評価

一般的にヘアケア素材・基剤の評価は、それ自体もしくは毛髪に塗布した際の「引っ張り」「曲げ」「ねじり」等の応力、摩擦力、表面や断面の形状、水分量など、機器測定で得られる物性値をもとに行っていました。しかしながら、これらの物性値は、毛髪を触ったときに感じる「さらさら」「なめらか」「しっとり」などの評価と必ずしも一致するものではなく、測定項目の特長に基づいた触感の予測という位置づけでの評価となっていました。

一方、専門パネルや消費者というヒトの指による使用感評価は、触感といった観点でとても重要かつ有効です。しかしながら、ヒトで確認する場合、個人差、経験、気分などの影響を受けやすく、評価の精度を高めるためにはパネルの人数を増やす必要があり、物理的に限界がありました。


「毛髪触感センサ」の開発

指は何かに触れると触圧を受けます。手触り感は、触れた後に指を動かすことで認識しますが、これは触圧の複雑かつ微細な変化を認識していると考えられています。この触圧は指の触覚受容器で認識しますが、なかでもパチニ小体と呼ばれる受容器が微細な使用感触の認識に深く関与していると考えられています。

田中真美助教授と資生堂は共同で、毛髪の触感を測定できる装置の開発を試みました。開発にあたっては、圧力を与えるとそれに比例した電気信号が現れる「圧電体」のひとつであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)という素材を活用しました。PVDFは加工が容易で、振動などの圧変化に対して非常に感度よく反応を示すという特性を持っています。毛髪の表面をなぞることで発生する触圧によりPVDFから電気信号が発生しますが、感度が良いために不要な信号を取ってしまうことやノイズも大きくなってしまうという問題がありました。そこで、毛髪の特性に合わせた認識システムを構築することにより、信号のノイズを極力減らし、必要な情報のみを取得して、さらに得られた信号に対しパチニ小体が高感度で受容可能な帯域に着目した信号解析等を行うことで、感性を計測できる装置「毛髪触感センサ」の開発に成功しました。

このPVDFを活用した「毛髪触感センサ」の性能を、毛髪表面形状モデル(※2)を用いて検証したところ、従来の測定機器では識別が困難だった、指で触ったときの評価と同様の結果が得られました。さらに、実際の毛髪を用いて「さらさら」「なめらか」などの具体的項目を評価したところ、指による評価と同様の結果が確認できました。この装置を活用することで、ヘアケア商品の触感を簡易かつ客観的に評価することが可能となります。

なお、本研究の成果は、2006年4月5日(水)〜7日(金)に開催される「センサ・アクチュエータ・マイクロマシン/ウィーク2006 総合シンポジウム」(東京ビッグサイト)で発表される予定です。

※2)最新レーザー加工技術を用いて、健常毛および様々なダメージヘアの微細なキューティクル状態を樹脂基板上に再現した毛髪表面状態モデル。指での評価では、キューティクルの間隔や高さがランダムなダメージヘアモデルほど感触が悪いという結果が得られている。

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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