東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2007/05/11

バイオ工学専攻の正田教授等の研究グループは世界最高感度の多糖分解酵素のスクリーニング法を開発しました


東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻の正田晋一郎教授らのグループは、多糖を分解する酵素を、従来法よりも格段に高感度でスクリーニングする新しい手法を開発した。従来は、多量の酵素試料を用い長時間かけて検出しなければならなかったが、本法により極微量の試料を短時間で検出することが可能となった。この結果は、6月4日に仙台で開催される東北大学バイオサイエンスシンポジウムで発表される。


【背景】

多糖分解酵素(多糖を加水分解する酵素)は、各種産業や医療分野において広く利用されている触媒である。例えば、セルロースを分解するセルラーゼ酵素は、衣料洗剤の添加剤やパルプ改質剤として実用化されている。最近セルラーゼは、化石燃料に替わるバイオエタノール生産あるいはバイオマス廃棄物利用における触媒としても脚光をあびている(図1)。
一方、デンプンを分解するアミラーゼ酵素は、すい臓疾患の診断、デンプン加工、機能性食品の製造に不可欠な酵素であり、高感度で迅速な検出法が強く求められていた。さらに、近年これらの酵素は多糖を分解する目的だけでなく、糖鎖を合成するための触媒としても有用であることが分かってきた。
このように工業的、臨床的、および学術的において極めて重要な触媒であることから、自然界に数多く存在する多糖分解酵素の中から目的にあった酵素を見つけ出す技術が必要不可欠となっている。従来、多糖分解酵素のスクリーニングには、酵素基質としてパラニトロフェノール誘導体やオリゴ糖を酵素基質とする古典的な方法が用いられてきた。しかし、これらの方法には、1)基質の合成が困難なこと、2)感度がよくないこと、3)クロマトグラフィーによる長時間の分析を必要とすること、などの問題点があった。


【本技術の開発により解決しようとする課題】

本発明は、このような問題点を解決するために、より迅速かつ高感度で、多糖分解酵素を効率よくスクリーニングする方法を提供するものである。


【課題を解決するための手段】

多糖分解酵素の基質として、糖の還元末端にフッ素原子を結合させたフッ化グリコシルを設計・合成し、発色剤としてはアリザリンコンプレクソンという色素を用いることにより、従来法に比べ格段に感度の高いスクリーニング法を開発することができた。アリザリンコンプレクソンは、古くからフッ素の微量定量に用いられている分析試薬である(図2)。


【発明の効果】

本発明とパラニトロフェノール誘導体を用いる従来法を比較検討したところ、本手法を使って酵素の検出に要する時間は、従来の20分の1から50分の1へと大幅に短縮した。さらに、パラニトロフェノール誘導体では検出できないような酵素も、高感度で検出することができた。
セロビオース、ラクトース、マルトースのフッ化物に対して、T. reesei由来の粗セルラーゼ、エンド-β(1-4)グルカナーゼII (EGII)、EGIII、ヒト唾液由来のアミラーゼを用いてパラニトロフェノール誘導体との加水分解活性を比較検討した(表1)。その結果、本法は従来法よりも約50 から30,000倍感度が高いことが明らかとなった。これは、現在知られている吸光分光法による加水分解酵素のスクリーニングとしては最高の感度を有するものである。また、EGIIやEGIII用いた場合、パラニトロフェノール法ではほとんど活性が検出できない酵素に対してもスクリーニング可能であることは特筆に価する。さらに、本発明は定性的なスクリーニングのみならず多糖分解酵素の速度論の定量的な解析にも使用することができる。
以上、本手法は,操作方法が簡便である上に.フッ化糖のC−F結合が高い反応性を有するため,多糖加水分解酵素による水解速度が非常に大きく、そのため,極微量の酵素に対しても,その活性を短時間で確実に感知することができる.したがって、微量の酵素であっても「有効成分の見落とし」をすることなく極めて高感度なスクリーニングを行うことができるので,より効率的なバイオ燃料の生産、すい臓疾患のより迅速な診断、より効率的な機能性食品の製造等、今後様々な分野での応用が期待される.


【成果発表】

2007年6月4日に、仙台国際センターで開催される東北大学バイオサイエンスシンポジウムで発表を予定している。

図1:バイオマス資源化における多糖分解酵素の重要性
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図2:フッ化物イオンの検出
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表1:フッ化糖を用いる本発明とパラニトロフェノール誘導体を用いる従来法との感度比較
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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