PRESS RELEASE
2008/09/10大画面液晶配線を全て低抵抗Cu合金に残されたソース・ドレイン課題を解決
東北大学の小池淳一教授は、大画面液晶TVを駆動する配線材料を現状のアルミニウムから低抵抗の銅合金に全面転換するための技術的課題を克服した。この成果によって、液晶TVに組み込まれている薄膜トランジスタ(TFT)のゲート、ソース、ドレインの全配線が単一の銅合金で形成できるようになるため、生産コストの低減に寄与できるだけでなく、配線抵抗の半減によって大画面化に付随する画像むらなどの問題が解消できる。
液晶TVでは、全ての画素に対して3種類の配線(ゲート、ソース、ドレイン配線)が接続されている(図1)。像を形成するときには、ゲート配線に電圧信号を送り、ソースからドレインに電流を流すことで、画素を透過する光量を調節する。ところが、配線の電気抵抗が高いと画面の両側で電圧信号に差が生じ、光の透過量が変わるため画像むらを生じる。この問題は大画面ほど顕著となるので、配線材料には低抵抗の金属を用いる必要がある。現状は、アルミニウムとモリブデン(Mo)を積層した配線が主流であり、より低抵抗の銅(Cu)配線への転換が求められている。
小池教授が開発した銅合金はマンガン(Mn)を添加した合金(Cu-Mn)である。この合金の特徴は、熱処理を行うことによってMnが合金表面に移動してMn酸化物層を形成し、内部は低抵抗の純銅になることである。Mn酸化物層は隣接する材料との密着性を高めたり、原子が混じり合うことを防止する役割を果たすことができる。昨年には、この合金を用いてゲート配線の課題(ガラス基板からの膜剥離防止、配線抵抗半減)が解決できることを発表し(図2)、海外の大手液晶パネルメーカーなどから高い評価を得た。同時に、ソース・ドレイン電極をも同じ銅配線で形成できないかとの強い要望があった。これが実現すると、全配線の抵抗を半減できるとともに、配線形成に関わるコストの3割削減が期待できるという。今回の開発技術はこの要望に答えるものである。
電流がソース配線からドレイン配線に流れるときは、中間に配置されている非晶質シリコン半導体を通過する必要がある。このため、ソース・ドレイン配線は非晶質シリコン(Si)との密着性に優れ、原子がお互いに混合せず(拡散バリア性)、電流が両方向に良く流れること(オーミック特性)が求められる。しかし、銅合金配線の場合は、第一と第二の特性を満足すると第三の特性が犠牲になるため実現していなかった。開発した技術は、非晶質シリコン表面を酸化し、この表面酸化層を合金配線中のMnと反応させて、Mn酸化物層を形成する。このMn酸化物が厚すぎると電流が流れにくくなりオーミック特性が得られない。また、薄すぎると拡散バリア性と密着性が得られない。Mn酸化物の厚さを1〜2ナノメートル(数個の原子が並んだ程度の距離)に調整することによって要求課題を解決した(図3,4)。
この成果によって、大型液晶の薄膜トランジスタを構成する全配線を単一のCu-Mn合金で形成することができるので、装置、配線材料、配線形成装置、工程に関わるコストが3割削減できる。さらに、それぞれの配線の特性と信頼性に関する要求項目を満たしながら抵抗を半減できるため、画像むらの問題が飛躍的に改善できるとともに、駆動回路数を半減できる。今後は、導電メカニズムの解明に取り組むとともに、関連企業への技術指導や共同研究を行い、大型装置での量産化に向けた課題を解決する。3〜5年後の実用化を目指す。
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