東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2009/09/25

化学工学専攻 今野幹男教授・長尾大輔准教授らの研究グループは新規高屈折率ナノコンポジット薄膜の作製に成功しました。

東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の今野幹男教授・長尾大輔准教授らの研究グループは、紫外線などの高エネルギー光照射でもポリマー成分が分解しにくい高屈折率コンポジット薄膜を作製した。従来、高屈折率ナノコンポジット薄膜の作製においては、高屈折率材料として知られる酸化チタンのナノ粒子が薄膜充填剤として広く用いられていた。一方、酸化チタンには特異な光触媒作用があり、コンポジット膜のポリマー成分が光触媒作用により分解する問題があった。これに対して同研究グループは、酸化チタンよりも大きなエネルギーバンドギャップを持つチタン酸バリウムを用い、ナノコンポジット薄膜を作製した。その結果、チタン酸バリウムのナノ粒子を高充填化することで、酸化チタン充填剤と同等の高い屈折率を有するコンポジット膜を作製することに成功した。同コンポジット薄膜は透明性にも優れることから、各種光学素子のシール材、光学コーティング材としての応用が期待される。さらに、高い誘電特性を示すチタン酸バリウムナノ粒子をポリマーと複合化した薄膜であることから、折り曲げ可能な透明キャパシタとしての応用も考えられる。


【背景】

液晶ディスプレイ(LCD)や有機EL等の画像表示装置は、その表示面に反射防止膜などの様々な表面コーティングが施されており、これらのコーティング処理により高い画像視認性が得られている。反射防止膜の主な目的は表示面の屈折率制御にあり、その多くは表示最表面から光源部に向けて屈折率が大きくなるように複数の透明薄膜(コーティング膜)が形成される。そのため表面コーティング工程においては、広い範囲で屈折率を調整できる透明薄膜の作製法が必要となる。
屈折率の高い透明薄膜の作製では従来、図1に示すように屈折率の高い無機ナノ粒子を透明性ポリマーに充填する手法が広く採用されている。図2(A)に示すように粒径が可視光波長より十分に小さい高屈折率ナノ粒子を透明性ポリマーに均一に分散させると、ポリマー本来の透過性を損なうことなく、薄膜の屈折率を大きくすることができる。これに対して、可視光波長より大きい(あるいは同程度の大きさの)高屈折率粒子を複合化した場合(図2(B))には、光の散乱等が強く現れ、薄膜の光透過性は低下する。
このような背景から、屈折率の高いナノ粒子をポリマーに均一に分散する技術の開発が強く求められていた。従来、充填剤として広く利用されている酸化チタンは代表的な高屈折率材料であるが、その一方で特異な光触媒作用がある。そのため、酸化チタンナノ粒子を分散したポリマー膜では、高エネルギー照射によってポリマー成分が分解することが問題になっていた。


【課題を解決するための手段】

今野教授・長尾准教授らの研究グループは、これまで積み上げてきたナノ粒子の合成技術と表面処理技術を駆使することで、上記の問題を解決する新規な高屈折率コンポジット薄膜を作製することに成功した。具体的には、酸化チタンの代替充填剤としてチタン酸バリウム(BT)のナノ粒子を、透明高分子であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)に分散する手法を開発した。BTは酸化チタンよりも大きなバンドギャップを有しており、BTナノ粒子をポリマーと複合化しても光触媒活性の問題が生じない。さらに、高濃度のナノ粒子をポリマーに均一分散するため、ポリマーとの複合化前にナノ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、ナノ粒子の凝集を抑制した。この表面処理剤はPMMAとの親和性が高く、表面処理することによってBTナノ粒子を高充填化できる。
図3は、粒径約20nmのBTナノ粒子をPMMAに充填したときに得られるコンポジット薄膜の屈折率である。図中の屈折率変化からわかるように、コンポジット薄膜の屈折率はBTナノ粒子の充填率を上げることにより1.77まで増大しており、酸化チタンを用いずにコンポジット薄膜の屈折率を実用レベルまで引き上げた。
図4は、各充填濃度で得られたコンポジット薄膜の透過スペクトルである。BT粒子を53 vol%充填してもコンポジット膜の透過率低下はほとんど見られず、この結果からポリマー膜中におけるBTナノ粒子の均一分散を示唆することができる。
さらに今回、高誘電性材料として知られるチタン酸バリウムをPMMAと複合化したことから、得られたコンポジット薄膜は誘電特性にも優れる。BT粒子充填率53 vol%におけるコンポジット薄膜の誘電率は30程度、誘電損失は0.1以下と低く、透明キャパシタとしての応用も期待される。

図1
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図2
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図3, 図4
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【お問い合わせ先】

工学研究科 化学工学専攻 プロセス要素工学講座 材料プロセス工学分野

教授 今野幹男

電話:022-795-7239
FAX:022-795-7241
E-mail: konno◎mickey.che.tohoku.ac.jp(◎は@に変更してください。)


准教授 長尾大輔

電話:022-795-7242
E-mail: nagao◎mickey.che.tohoku.ac.jp(◎は@に変更してください。)

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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