東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2011/02/08

バイオ工学専攻の正田教授の研究グループと野口研究所(公益財団法人)は、胃癌や胃潰瘍などの原因となるピロリ菌を殺菌あるいは増殖抑制するオリゴ糖の大量合成法を開発しました。

東北大学工学研究科バイオ工学専攻の正田教授の研究グループと野口研究所(公益財団法人)は、胃癌や胃潰瘍などの原因となるピロリ菌を殺菌あるいは増殖抑制するオリゴ糖の大量合成法を開発した。合成ターゲットとなったオリゴ糖は、N−アセチルグルコサミンとガラクトースという二種類の単糖が、α結合を介して結合したもの。水中で脱水縮合剤と酵素を使ってわずか2工程で合成することができる(図1)。本成果は、3月26日から神奈川大学で開催される日本化学会において発表される。

【背景】
世界人口の約半数に感染しているとされるピロリ菌は、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌の要因の一つであることが知られている。2004年に信州大学の研究グループにより、胃粘膜深層に存在するα結合を有するN−アセチルグルコサミン含有オリゴ糖に、ピロリ菌増殖を抑制する作用があることが発表された。それ以来、世界中でそのオリゴ糖の人工合成が試みられてきた。しかし、これまでに報告された化学合成では、糖の水酸基の保護・脱保護が不可欠であるため、多量の有機溶媒を用い、少なくとも10段階以上の複雑な合成経路や技術が必要であった。したがって、出発原料である無保護の単糖から、目的オリゴ糖に至る収率は低いものであった。そこで、工業化可能で、且つ、安価でより簡便な製造方法が強く求められていた。
【本技術の開発により解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の問題点を解決するために、より高効率で、保護基の導入や除去を伴なうことなく、無保護糖から効率よくαで結合したN−アセチルグルコサミン含有オリゴ糖を製造する方法を提供するものである(図1)。
【課題を解決するための手段】
ジメトキシトリアジン試薬(DMTMM)を用いることにより、無保護のN−アセチルグルコサミンから、水中において一段階で、本合成の鍵となる糖供与体(DMT糖供与体)を高収率で調製した(図1上部)。さらに、このDMT糖供与体は、野口研究所において開発されたα―N−アセチルグルコサミニダーゼという微生物由来の糖加水分解酵素によく認識され、ガラクトースに対して効率よく糖転移が進行し、目的とする二糖が生成することを初めて見出した(図1下部)。
 本合成法を用いると、水溶液中一段階で調製できるDMT糖供与体を基質として、α―N−アセチルグルコサミニダーゼの作用により、抗ピロリ菌効果を有するオリゴ糖が、わずか2工程で、50〜60%という、従来法に比べ格段によい収率で調製することができる。
【発明の効果】
  • N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)がαでガラクトース(Gal)に結合したオリゴ糖鎖(αGlcNAc-Gal含有オリゴ糖鎖)は、従来の抗生物質とは全く異なり、あらゆるピロリ菌の生育に必須の増殖活動を抑制するという機序でピロリ菌に対する抗菌作用を示すことが期待できることから、抗ピロリ菌剤としての使用が期待できる。
  • また、本発明によりαGlcNAc含有オリゴ糖鎖を、人工高分子担体あるいは、クラゲや卵白などの容易に入手可能な天然のムチン型糖蛋白質糖鎖へ導入可能である。したがって、調製した物質は、ピロリ菌増殖抑制剤として、サプリメントや飲食品添加物として有用であると考えられる。
  • また、ピロリ菌増殖抑制剤を含有する飲食品は、機能性飲食品や健康飲食品として有用である。ピロリ菌増殖抑制剤を含有する医薬製剤は、ピロリ菌に起因する消化器系疾患、特に胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍のような胃疾患を軽減したり治癒したり予防したりする医薬品として、期待される。
〔成果発表〕
 2011年3月26日から、神奈川大学(横浜市)で開催される日本化学会第91回春季年会で発表を予定している。なお、本研究に関連した特許を出願している。特許出願2010-054874

〔図1〕α結合のN-アセチルグルコサミン含有オリゴ糖が、水中で、わずか2工程で合成できる
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【問合せ先】
東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻
生体分子化学講座 機能高分子化学分野
教授 正田晋一郎
〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11-514
Tel: 090-7666-3654 (or 022-795-7230)
Fax: 022-795-7293
E-mail: shoda◎poly.che.tohoku.ac.jp(◎は@に置き換えてください。)

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
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