東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2013/03/12

保護剤を使用しない環境にやさしい 水系白金ナノ粒子分散液の製品実用化に成功 (応用化学専攻 林准教授)

東北大学大学院工学研究科応用化学専攻 林 大和准教授の研究グループが中心となり、四国計測工業(本社:香川県仲多度郡)と共同開発した保護剤を使用しない水系白金ナノ粒子分散液の製品実用化に四国計測工業が成功いたしました。本製品「【水系】白金ナノ分散液 Water-based Platinum Nano Dispersion」は、関東化学より3月に発売されます(詳しくは関東化学【水系】白金ナノ分散液リーフレットを参照)。
【水系】白金ナノ分散液 Water-based Platinum Nano Dispersionは、本学研究グループが新しく開発した合成法によって、(1)従来金属ナノ粒子合成で必要であった保護剤を使用することなく、(2)水系溶媒中で3nmの一次粒子径を有し分散する白金ナノ粒子分散液を実現しました。また合成過程において(3)原料由来の廃棄物を発生させないプロセスを開発することで、ナノ粒子の洗浄と廃棄物の処理が不要になり、(4)環境負荷の低減と製造の高スループット化が可能になりました。
この【水系】白金ナノ分散液は、粒子表面に保護剤が存在しないために物性における高活性化が期待できるだけではなく、水を主溶媒とし原料に毒物を使用しない安全な製法で合成されているために(特許第4872083号)、自動車排気ガス触媒や光触媒などの触媒用途だけではなく、生体に関係する医薬・食品などの医療分野、生活分野など安全性がとわれる研究分野においても幅広く利用されることが期待されます。
また四国計測工業では、【水系】白金ナノ分散液製造装置を販売する予定です。
【水系】白金ナノ分散液 Water-based Platinum Nano Dispersionの開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業総合技術開発機構(NEDO)の次の事業・課題として推進されたものです。

事業名:産業技術研究助成事業(若手グラント)
課題名:「低コスト・低環境負荷ファブリケーションによる金属ナノ粒子材料の応用技術開発」(平成18年1月〜平成20年12月)

本開発内容は日本セラミックス協会2013年年会(平成25年3月17日〜19日:東京工業大学)でトピックス講演に採択され発表する予定です。


【開発の背景】
ナノ粒子はナノサイズ化による表面効果や量子サイズ効果によって、物性の高性能化や新しい物性が発現することが知られており盛んに研究されています。従来、金属ナノ粒子の多くは、金属原料を還元し、ナノ粒子表面を保護剤で覆い合成する化学的手法が用いられています。従来法において用いられる金属原料は毒性物質である場合が多く、合成過程において酸性雨原因物質などの毒性廃棄物が発生します。また、粒子の粗大化を防ぐため、合成時に保護剤の使用が必須になりますが、保護剤で覆われたナノ粒子は、機能が低下するため使用時には保護剤を除去する必要がありました。
このように、従来の手法では原料や保護剤が原因で、ナノ粒子の洗浄処理と廃棄物処理が必須であり、これらが合成過程を複雑化させ製造コストを増加させる問題がありました。
当研究グループでは、これらの金属ナノ粒子合成における問題を解決するために、毒性物質の使用・発生なく保護剤を使用しない、洗浄処理・廃棄物処理が不要で短時間合成が可能な画期的な金属ナノ粒子合成法を開発しました。(図参照)
今回、この画期的な金属ナノ粒子合成法で作成した白金ナノ粒子は、保護剤を使用しないにもかかわらず、3nmの一次粒子径を持ちながら水溶液中で高分散しています。この白金ナノ粒子は、保護剤を使用していないためより白金ナノ粒子の高活性化が期待され、また水溶媒・毒性廃棄物が発生しないプロセスで合成しているため、自動車排気ガス浄化や燃料電池、化学合成等に代表される触媒用途への応用だけではなく、白金ナノ粒子の抗菌性や抗酸化性、抗ウィルス性等が期待できる医薬品等の安全性が重要な分野においても応用が期待されます。
またこの合成法は白金ナノ粒子だけではなく、銅ナノ粒子への応用が可能であり、低価格電子実装用ナノ粒子を目指し開発研究を進めています。

【水系】白金ナノ分散液 Water-based Platinum Nano Dispersionの特徴
(1)保護剤の使用なく白金ナノ粒子を合成・分散
新しく開発したマイクロ波合成法により、従来ナノ粒子合成でナノサイズ化に必要であった保護剤を使用することなく、白金ナノ粒子の合成が可能になりました。また白金ナノ粒子が沈殿することなく長期間溶媒中に分散させることに成功しました。
(2)保護剤が付着していない高活性な白金ナノ粒子
通常の金属ナノ粒子では、合成時のナノサイズ制御と溶液中の安定化及び溶液中に分散させるためにナノ粒子表面に保護剤が付着し表面活性を低下させますが、本白金ナノ分散液では、保護剤を使用していないため、表面活性が低下しません。
(3)水溶媒ベースの毒性廃棄物フリープロセスで合成
本白金ナノ分散液は水とエタノールを主成分とした溶媒と毒性廃棄物が発生しない白金原料で合成しています。そのため、安全性が問われる分野でも安心して使用することが可能です。水溶媒が主成分で毒性物質や廃棄物が発生しない手法で合成しているため、洗浄処理や廃棄物処理が不要で、環境に配慮した安全で簡便な白金ナノ粒子合成プロセスと言えます。

以上(1)から(3)の特徴により、環境性・機能性・コストのバランスが成立した白金ナノ粒子分散液を提供することが可能になりました。今後、【水系】白金ナノ分散液だけではなく、製造装置も四国計測工業が製造、販売する予定です。

従来法と本【水系】白金ナノ分散液の特徴
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【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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