東北大学工学研究科・工学部
過去のプレスリリース一覧

PRESS RELEASE

2013/04/11

ゴマの健康成分セサミノールの生産につながる新しい酵素の発見(バイオ工学専攻 中山教授)


東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻応用生命化学講座の中山亨教授は、宮崎県の清本鐵工(株)および南九州大学の山口雅篤教授との共同研究で、ゴマに含まれる健康促進成分「セサミノール」の工業的生産に突破口を開く可能性を秘めた、新しい酵素を発見しました。

ゴマ(図1)は有史以前から重要な種子作物として食されてきました。ゴマやゴマ油などのゴマ関連食品を摂取すると、健康に好ましいさまざまな効果があることが明らかにされています。このうち、ゴマに含まれるリグナン*の一種セサミンの健康促進効果については特に理解が進み、健康食品の成分としてすでに大きなマーケットが開拓されています。そしてゴマにはまだ、セサミン以外にも、健康促進成分としてきわめて有望なリグナンが含まれています。そのうちの一つがセサミノール(図2)です。

 過去20〜30年間に、わが国のゴマ科学研究は先駆的な成果を挙げてきました。そうしたなかで愛知学院大学心身科学部の大澤俊彦教授(名古屋大学名誉教授)やその共同研究者によって、ヒトの健康に好ましいセサミノールのさまざまな生理活性(強力な抗酸化活性、抗動脈硬化作用、抗がん作用など)が明らかにされ、セサミノールはセサミンと同様に、健康成分として重要視されてきました。ゴマ種子中には、セサミノールに3つの糖(糖鎖)が結合したセサミノールトリグルコシド(STG、図3)が含まれています。このSTGはまた、ゴマ油の製造の過程で排出される「ゴマ搾りかす」という副生物の中にも豊富に含まれています。ただし、糖が結合したSTGの形では上に述べた有用な活性は発揮されません。STGの糖鎖構造の難分解性のために、ゴマを摂取しても、STGはヒト腸管の消化液や腸内細菌にほとんど分解されることなく排出されてしまうと考えられます。STGは安価なゴマ搾りかす中に多量に含まれることからセサミノールの安価な原料として期待されてきました。しかしながら現在、ゴマ搾りかすは付加価値の低い飼料や肥料としてしか利用されていません。

 今回、東北大学の中山教授らの研究グループは、STGを分解してセサミノールを効率よく生成できる微生物を自然界から幅広く探索しました。その結果、ゴマ搾りかすからそのような能力を持った微生物が見いだされました。この微生物のSTG分解酵素(PSTG)はβ-グルコシダーゼ*という酵素で、この酵素単独でSTGを効率よく分解します。研究グループはこの酵素を微生物の細胞抽出液から精製し、酵素遺伝子も取得し、組換え型酵素も調製してその性質を詳しく調べました。その結果、PSTGは他の多くのβ-グルコシダーゼが好んで切断するβ-1、4-グルコシド結合やβ-1、6-グルコシド結合よりも、一般には分解されにくいβ-1、2-グルコシド結合をより好んで切断するというユニークな特異性をもっていることがわかりました。STGの糖鎖構造にはβ-1、2-グルコシド結合とβ-1、6-グルコシド結合の両方が含まれますので、PSTGがSTGを例外的に効率よく分解できる能力の少なくとも一部は、この酵素のユニークな特異性によって説明できるものと思われます。本研究成果は4月10日発行の米国科学誌PLOS ONEに発表されました(http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0060538)。この酵素の発見により、安価な未利用資源から付加価値の高いセサミノールを工業的に生産するための突破口が開かれる可能性がでてきました。

*用語解説
リグナン:桂皮酸誘導体から導かれる植物二次代謝産物の一群で、C6-C3型の構造が二つ組み合わさった構造をもつ。ゴマなどいくつかの種子作物に豊富に含まれ、セサミンとセサミノールはゴマ特有のリグナンである。

β-グルコシダーゼ:β-グルコース配糖体のβ-グルコース部分を切り出す酵素の総称。

図1. ゴマ種子
※画像クリックで拡大表示
図2. セサミノールの化学構造
※画像クリックで拡大表示
図3.  STGの化学構造
※画像クリックで拡大表示
【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

このページの先頭へ