東北大学工学研究科・工学部
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PRESS RELEASE

2013/09/10

未来エネルギー源・核融合プラズマの性能悪化の新たな原因を発見 −電子温度勾配が起こす高周波揺らぎによるエネルギー移送を世界で初めて計測−(電子工学専攻 金子俊郎教授、畠山力三名誉教授)

研究概要

東北大学大学院工学研究科 金子俊郎 教授、畠山力三 名誉教授の研究グループは、クリーンな未来エネルギー源の核融合を目指すプラズマの閉じ込め性能の悪化が、電子温度の傾き(空間勾配) によって高周波揺らぎが発生し、その高周波揺らぎから低周波揺らぎへエネルギーが移ることによって起こることを突き止め、そのメカニズムを明らかにしました。

核融合反応を可能とするためには、1億度を超えるプラズマを生成して磁場の力で閉じ込める必要があり、このプラズマの閉じ込め性能をより高めることが将来の核融合炉の早期実現につながります。これまでにプラズマ閉じ込め性能を悪化させる原因として、プラズマの温度や密度の揺らぎである“不安定揺動(モード)”が知られていましたが、従来はプラズマ中のイオンが関与する数キロヘルツの周波数の低周波不安定揺動が主に研究されてきました。一方で、近年、電子が関与する数メガヘルツの周波数の高周波不安定揺動がプラズマ閉じ込め性能を悪化させる新たな原因として提案されましたが、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。

本研究グループは、プラズマ中の電子温度の空間勾配を精密に制御することで“電子温度勾配モード”と呼ばれる高周波不安定揺動を能動的に発生させ、この高周波不安定揺動のエネルギーが高度な強い結合(=非線形相互作用)によって“ドリフト波モード”と呼ばれる低周波不安定揺動に移送されることを、実験的に計測することに世界で初めて成功しました。これまでに低周波不安定揺動がプラズマ閉じ込めを悪化させることは明らかになっているため、今回の実験結果は高周波不安定揺動も低周波不安定揺動を経由してプラズマ閉じ込め性能を悪化させる原因であることを実証したものであり、この高周波不安定揺動を抑制することでプラズマ閉じ込め性能を向上させ、核融合炉の実現に大きく寄与することができます。さらに、これまで困難とされてきた周波数が100倍以上異なる不安定揺動間の非線形相互作用を実験的に計測することに成功したことは、プラズマ物理学のみならず流体科学や宇宙・天文学等における不安定揺動の非線形発展の研究にも寄与できるものと期待されます。

本研究成果は、2013年9月10日(米国時間)に発行される科学誌「Physical Review Letters (フィジカルレビューレターズ) Online版」(American Physical Society)に掲載される予定です。

研究背景と経緯

核融合発電の実現のためには、1億度以上のプラズマを磁場の力で容器内部に閉じ込める必要がありますが、多くの磁場閉じ込めプラズマ装置では、予測をはるかに上回る大きさでプラズマが周辺に拡散損失してしまう“異常輸送”が発生し、閉じ込め性能を悪化させています。このプラズマ閉じ込めを悪化させている異常輸送の発生機構の解明は極めて重要な研究課題です。これまでに、異常輸送はプラズマの温度や密度の揺らぎである“不安定揺動(モード)”に起因することが明らかにされており、特にプラズマ中の質量の重い正の電荷を持つイオンの異常輸送を説明するものとして低周波数(数キロヘルツ)のイオン温度勾配不安定揺動(ITGモード)が提案されています。このITGモードは、プラズマ中に自発的に形成されるプラズマ流(帯状流)によって抑制されることが分かっています。

一方で、質量が軽く負の電荷を持つ電子も、極めて大きな異常輸送を引き起こし、閉じ込め性能を悪化させる新たな要因として浮上しており、それを説明するモデルとして高周波数(数メガヘルツ)の電子温度勾配不安定揺動(ETGモード)が理論的に提案されました。しかしながらETGモードが異常輸送を引き起こすメカニズムは明らかになっておらず、しかもETGモードは帯状流によっても抑制されにくいことが理論的に指摘されており、ETGモードが異常輸送を引き起こす機構を解明し、それを抑制する手法を開発することが現在の核融合閉じ込め研究には必須の課題のひとつであります。

研究内容と展開

今回、金子教授と畠山名誉教授の研究グループは、電子温度の空間勾配を自由に制御できる装置を開発し、電子温度勾配に起因する高周波不安定揺動を能動的に発生させ、密度勾配が存在する時に発生する低周波不安定揺動との非線形相互作用により、高周波揺動のエネルギーが低周波不安定揺動に移送する新たな現象を発見し、その機構を解明しました。この非線形相互作用の解析は、九州大学応用力学研究所および核融合科学研究所と共同で行いました。

実験は、図1に示す東北大学の直線型磁場印加プラズマ装置を用いて行いました。マイクロ波を用いた電子サイクロトロン共鳴放電による高電子温度のプラズマと低電子温度の熱電子を制御して重ね合わせることで、電子温度を(半径方向に)空間的に変化させて、電子温度勾配(ETG)を容易に形成することに成功しました。この電子温度勾配を少しずつ増加させていったところ、電子温度勾配に起因する高周波数の不安定揺動(ETGモード)が発生し、図2に示すように電子温度勾配の増加とともに揺動強度も増大していきました。しかしながら、電子温度勾配がある閾値(1.2 eV/cm)を超えるとETGモードの揺動強度は飽和し、代わりに低周波数のドリフト波モードの揺動強度が増大することが観測されました。このとき、周波数が100倍以上異なる二つの不安定揺動間の相関をバイスペクトル解析により求めたところ、図3に示すようにETGモードとドリフト波モード間の非線形相互作用の度合いを示すバイコヒーレンスの値が、ETGモードが飽和し始めると同時に急激に増大することを世界で初めて明らかにしました。

これらの結果から、電子温度勾配によって発生したETGモードの揺動強度が閾値を超えることでドリフト波モードとの非線形相互作用が助長され、高周波不安定揺動のエネルギーが低周波不安定揺動に移送することでドリフト波モードを増幅したと考えることができます。つまり、今回の実験結果は電子温度勾配によって発生した高周波不安定揺動も低周波不安定揺動を経由してプラズマ閉じ込め性能を悪化させる原因であることを実証したものであります。今後、この高周波不安定揺動を抑制する手法を開発することで、プラズマ閉じ込め性能を向上させ核融合炉の実現に大きく寄与することができます。

図1:電子温度勾配を発生させる実験装置。
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図2:電子温度勾配を変化させた時のETGモード(0.4 MHz)とドリフト波モード(7 kHz)の揺動強度の変化。
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図3:電子温度勾配を変化させた時の非線形相互作用を示すバイコヒーレンスの変化。
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【論文情報】
●発表論文名:
Dynamics of Nonlinear Coupling between Electron Temperature Gradient Mode and Drift Wave Mode in Linear Magnetized Plasmas(直線型磁化プラズマ中における電子温度勾配モードとドリフト波モード間の非線形相互作用の動的挙動)
●著 者 名:
Chanho Moon, Toshiro Kaneko, and Rikizo Hatakeyama
●発表雑誌名:
Physical Review Letters (American Physical Society), 111巻, 11号, 2013年9月10日(米国時間)

【お問い合わせ先】
(研究内容に関すること)
東北大学大学院工学研究科 教授 金子俊郎
TEL: 022-795-7116 FAX: 022-795-7116
E-mail: kaneko◎ecei.tohoku.ac.jp(◎を@に置き換えてください。)

【お問合せ】

東北大学工学研究科・工学部情報広報室
TEL/ FAX:022-795-5898
E-mail:情報広報室メールアドレス

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