CROSSTALK【学生相談】立ち止まる時間も大切に

どんな小さな悩みでも、困り事でも。
私たちと一緒に次の一歩解決への道を探しましょう。

大学は、可能性豊かな青年期を過ごす、伸びやかな挑戦と成長のフィールド。知的成長をかなえる学問・研究、そして友人、趣味・スポーツなど、生涯にわたり、自身を導き支えてくれる新しい出会いに満ちています。一方で、新しい環境への戸惑い、学修や研究への不安、将来への心配や迷い、人間関係の悩みなどに直面することも少なくありません。特に近年の学生さんたちは、コロナ禍による対面交流の制限を経験し、人と関わることに慎重になったり、自分の気持ちをうまく表現できなかったりする傾向も見られます。
工学部・工学研究科では、一人ひとりが安心して学び、自分らしく成長できるよう「学生支援室」「カウンセリングルーム」を設けています。長年、教育・研究に携わってきた経験豊かな相談員(教職経験者)と専門的な訓練を積んだカウンセラーが、学生さんの困り事や悩みに耳を傾け、解決の糸口を探り、自分らしい未来を描いていけるよう伴走します。
学業や進路の悩みだけではなく、「自分自身の性格をもう少し理解したい」、「友人・恋人との関わり方について誰かに話してみたい」、「心身が疲れていて、調子が整わない日が続いている」など、どんなことでも構いません。「学生支援室」「カウンセリングルーム」はすべての学生さんに開かれた場所です。

(聞き手:工学部・工学研究科 情報広報室)

Members

悩み多き季節。
心が揺れる瞬間に、寄り添う。

—いつの時代も、“青年期”は悩み多き時期といわれてきましたが、とりわけ最近の学生さんが抱える問題は、多様化かつ複雑化しているといわれます。実際にはいかがでしょうか。コロナ禍の影響はありますか?

佐藤 正明佐藤
私は相談員を務めて7年になりますが、ここ2、3年、研究室に行くことができない、溶け込めないという訴えをしばしば聞くようになりました。コロナ禍により授業がリモート中心となり、教室でのちょっとした相談の機会や、友人との何気ない会話が減ってしまったことは事実です。それが直接的に影響しているかどうかは明言できませんが、他者とコミュニケーションを図ることが難しい、友だちができない/つくれないという傾向があるように思います。切磋琢磨しあえる仲ということを超えて、学業・研究を“助け合う”という意味において友人はとても大きな存在なのですが…。
村岡 裕明村岡
おっしゃる通りですね。専門科目が始まると、途端に授業が難しいと感じる学生さんが多いようなのですが、友だちとわからないところを教え合い、補完しあって習熟度を高めていくものです。我々の時代もそうでしたし、古今東西の学生が友人に頼り頼られ、学問を進めていくものなのではないでしょうか。ですから友だちがいる学生さんというのは、こちらも安心して見守ることができます。
吉川 昇吉川
一般的にリモート授業は、授業受講の拘束が緩くなります。そのため十分な学習に到達できなかったり、単位取得が難しくなったり、引きこもってしまったという学生も散見されるようになりました。一方、リモート授業にはメリットもあり、オンデマンド(あらかじめ録画された授業動画を、学生が自分の好きなタイミングで視聴できる授業形式のこと)の場合、理解が難しい部分を繰り返し見直すことができる、メモや一時停止がしやすい、という点が挙げられます。自分のペースで学習が進められたという意味では、よかったのですね。しかし、対面の授業が始まり、オンデマンドに慣れてしまうと、内容やスピードについていけなくなるという場合も生じ、その後、勉学意欲をなくし、不登校になるケースもありました。
塚田 隆夫塚田
コロナ禍により生活や活動が大きく制限されていた時期、つながりを育むひとつの試みとして上級生を含めて、グループを組み、学生同士が気軽にコミュニケーションを図る場が設けられていましたが、任意参加なので、全員が顔を出すわけではありません。やはり、最近は友だちができにくい、作りづらいという傾向があったようですね。一方で、学校に来なくなる、授業に出なくなる状況には、千差万別の背景があります。モチベーションを喪失して、留年を1度のみならず、何度も繰り返すようになると、さらに卒業/修了が遠くなるので、早めのケアが必要だと感じています。
吉野 博吉野
私は相談員になって2年ほどと日が浅いのですが、務め始めたころからずっと長期的に面談を重ねている学生さんがいます。この学生さんは、大学院に進み、自分が取り組みたい研究領域が明確になってきて、現在所属している研究室の方向性とは距離ができてしまった、研究室を変えたいという要望を持っていました。こうした研究意欲とチャレンジ精神に最大限応えなければなりませんね。

一人ひとりの「らしさ」を大切に、
心のリズムに合わせて

苦悩友人と比べて自分が劣っているように思えます。

塚田 隆夫塚田
先生から言われたこと(要求)にちゃんと応えることができないという切実な訴えに接することがありますが、よくよく話をしてみると、決してそうではなくて、やるべきことはできているのです。ですから自信を持つようにとアドバイスし、学生さんの内側にある力に、光を当てるような関わり方を心がけています。

悩み学業や成績へのプレッシャーがあります。

吉川 昇吉川
保護者の方の期待に応えたい、けれどもそれが心の重荷になっているというケースがありました。学生さんは単位を取るのが難しいという状況だったのですね。そこで保護者の方を交えた話し合いの場を設けました。授業の取り方や時間割の組み方は、私から具体的な助言ができるのですが、家庭内のことは(学生さんと保護者の)橋渡しをして、私はオブザーバー的な立場で、という距離感で対応することがあります。

不安学生支援室を利用したいのですが、
自分のことをうまく話せるか不安で…。

佐藤 正明佐藤
悩みを言語化できない……それでも、勇気をもって支援室のドアを叩いてくれて、うれしく思います。言葉にならない思いや、まとまっていない気持ちも、ここではそのままで構わないのです。私たち相談員は、焦らずゆっくりと、無理強いせずに学生さんのペースに合わせて、言葉にならない想いに心を寄せています。

迷い進路を変更しようか迷っています。

吉野 博吉野
「進路を変えてもいいのか」「今の選択に自信が持てない」といった思いは、誰にでも起こり得る自然な揺らぎです。学生さん自身の価値観や気持ちを尊重しながら、選択肢を広げるお手伝いをしています。一方的な助言ではなく、対話を通して「自分らしい選び直し」ができるよう、情報面・心理面の両方から支援を行います。迷いの中にある意味や可能性を、一緒に探っていく姿勢を大切にしています。

憂鬱気持ちが落ち込んだり不安になったりすることがあって苦しい。

村岡 裕明村岡
つらい気持ちを抱えながら、学生支援室まで来てくれたことが、とても大事な一歩です。今の状態を決して否定することなく、いったんは受け止めることを勧めています。そして話し合いを通じて、一緒に気持ちを整理していきます。心理的な危機に陥っていて、専門家の特別なケアを要すると判断される学生さんは、「カウンセリングルーム」につないでいます。

人生の伴走者として。
専門家の支援をもっと身近に。

—カウンセリングルームに来室する学生さんは、どんなきっかけで利用を始めるのでしょうか。また心の専門家のお立場から、メンタルヘルス支援、心理ケアをどのように進めていかれるのですか?

清野 静清野
カウンセリングルームを利用される場合、先生方や学生支援室から紹介されてお越しになる学生さん、また、ご自身で不調を自覚し、本ルームのことを調べて来室される学生さんもいます。丁寧にお話をお聞きして、単位取得が難しい、研究室などの進路選択で悩んでいるなどの場合には学生さんの了解のもと、各系の相談員の先生と連携して進めさせていただきます。眠れない、人間関係でつまずいている、何らかの生きづらさを抱えているといった場合には、共に伴走し、その方らしい問題解決の道を探っていきます。悩みや問題に応じて、適宜、心理療法を組み合わせ、ケースに応じ、折衷した形で相談支援に取り組ませていただいております。
増⽥ 真樹増⽥
カウンセリング方法としては、さまざまな心理療法を統合的に用いて、自発的に気づけるように導いています。本学部本研究科の学生さんは、言語能力や理解度が高いという印象を持っています。一方で、自己肯定感が低かったり、周囲の一言をとても厳しく捉えてしまい、「自分はダメだ」と自己批判をしたりする学生さんもいます。そのような状況でもカウンセリングを重ねることで、物事の見方や捉え方、人との接し方が少しずつ変化することにより環境が整い、学生さんにとってよりよい方向に変容していきます。ひとつの悩みが終わっても、卒業まで利用される方もいらっしゃいますね。
清野 静清野
心の仕組みや感情の揺れ、人との関わり方について学ぶ「心理教育」を通じて、ストレスとの付き合い方、より健やかに過ごすためのヒントを得られやすくなるようです。本学の学生は力がある方が多いので、カウンセリングを進める中で自分の問題の解決策や対処法を自ら見い出す力が付き、不調への自己調整が上手にできるようになっていきます。物事の捉え方がバランスよく変化し厳しい状況が改善します。昨年度は「この(カウンセリングの)伴走していくということがなければ卒業できなかった」と感想を述べられる学生さんが何人かおられました。
増⽥ 真樹増⽥
心やメンタルに関する知識や情報があると、少し問題が立ち上がっても、自分自身で小さな芽のうちに摘めるという利点があります。学生さんの中には、「抱えていた問題はクリアになったけれども、これからも定期的にカウンセリングを利用していきたい」と話される方もいます。ぜひ心の健康を支える専門家を、人生の伴走者として位置づけていただきたいですね。
清野 静清野
時に追い込まれ、絶望の訴えや自己破壊的な言動など、慎重な対応を迫られる学生さんもおられます。関わりの中で、次第に落ち着いて「自分を大事にしたい。わくわくする。頑張りたい」など(学生さんから)先々への希望をもった言葉が語られる時は、私も日々の苦労が報われたと感じます。また卒業後「引き続き専門家のメンタルサポートを受けたい。情報がほしい」という連絡や感謝の言葉をいただくこともあります。カウンセリングルーム利用は少なくとも(学生さんにとって)ネガティブな経験ではなかったと支援に携われたことをうれしく思います。

人生の物語を
豊かにしてくれる出会いを、大切に。

—学生さんへの応援の気持ちを込めて、ひとことメッセージをお願いします。

塚田 隆夫塚田
学生時代は、さまざまな人との出会いや関わりを通して、人間関係の豊かさや難しさに触れる時期でもあります。そんな中、笑い合った記憶や悩みを共有した経験は、心に残る大切な時間となります。社会に出てからも、同じ分野で活躍する研究者/技術者として協働する機会もあるでしょう。異なる道を選んだとしても、それぞれの視点や知識を持ち寄ることで、新しい価値を生み出すきっかけになるかもしれません。友人や仲間たち…ゆっくりと自分なりのつながり、関係性を育んでほしいと思います。
佐藤 正明佐藤
私は相談に来られた学生さんには、興味・関心の持てることを探すことを勧めています。プライベートでも学業・研究面でも、できれば複数あるといいですね。一つのことがうまくいかなくても、別のことがカバーしてくれる、取って代わってくれるというのは心強いものです。また、どうしても大学に通うのがつらいというときは、思い切って休学するというのも一つの選択肢かと思います。一生という長いスパンで見て、少し一休みをして、心身の英気を養ってから、再挑戦すればよいのですから。
吉川 昇吉川
人生にはいろいろな季節があります。いったん休んだとしても、またゆっくり歩き出せばいい。過去や原因にとらわれるのではなく、今ある状況を受け止めて、未来志向的にどうすればよいのかを考える必要があるでしょう。そういう意味では、さきほど清野先生・増田先生がおっしゃった「心理教育」が有効かもしれません。ただ私としてはせっかく努力をして入った大学ですから、卒業してほしいと強く思っています。ですから修学の困り事には、きめ細かく対応しています。社会への出口支援を行うことで、卒業生がさまざまな分野で活躍・貢献してくれています。感慨深いものがありますね。
村岡 裕明村岡
入学してかなり早い時期に、学業への違和感を抱いたり、つまらないと感じたりする学生さんがいるのですが、大学での学びと研究はまだまだ最序盤ですよ、と伝えたいですね。これから研究室に配属され、これまで経験したことのないような探究を始めることになります。それも未来社会の構築につなげていくようなワクワクするような取り組みです。研究成果を上げられれば国際会議や学会で発表できる機会もありますし、世界の研究ネットワークの一員として名を連ねることもできます。そんなグローバルでダイナミックな面にも目を向けてほしいですね。
吉野 博吉野
先ほど佐藤先生が言っておられたように、心の荷物が重くて歩けないという場合は、休学を選択してもよいのかもしれません。休学は「学びを止める」ことではなく、「自分のペースで人生を問い直す」休憩期間と考えてはどうでしょう。青年期は、試行錯誤という余白が許されるライフステージであり、遠回りを糧に変えることもできます。ご自身の可能性にぜひ光を当ててほしいですね。
増⽥ 真樹増⽥
カウンセリングルームを利用された学生さんが、友人にも勧めたというお話をしばしば耳にします。心地よく過ごせる場所がいくつかあることで、気持ちも楽になります。学生さんにはぜひ家庭(ファーストプレイス)でも、学校(セカンドプレイス)でもなく、安心して自分を開示し、肩の力を抜いて過ごせる第三の居場所(サードプレイス)をつくってほしいですね。また、学生支援室・カウンセリングルーム共に、保護者の方の利用も可能です。来学が難しい場合は、オンラインによる対応も可能です。ぜひどんな小さなことでも結構ですので、気がかりなことがありましたら、ご連絡をいただければと思います。
清野 静清野
学生さんが卒業される時、自身の留年や休学の体験について「人生に足枷ができてしまった(人生のスムーズな前進を妨げるものになった)」と語ることがあります。私は、留年や休学を機に、内省を深め、気づきを得、そこを乗り越えたプロセスや体験は、その方の人生のささくれのようなものとなり、時に、その後の新たな挑戦や研究の完成度を高めるなどのこだわりや糧となり、その後を生きる新たな力になるとお話をしています。それぞれ内面との対話を通じて綴ってきた自分の取り扱い説明書を大切に、そして折々に更新しながら自己理解を深めていってほしいと願っています。困った時に相談することは大切な生きる力です。学生さんが自分らしい選択を重ねながら前を向いて歩いていかれる様、願っています。

取材日/2025年8月

「各系学生支援室」「カウンセリングルーム」の利用方法は、下記ページをご覧ください。