AIで、高い機能を持つタンパク質を設計する

タンパク質というと、三大栄養素のひとつ、というイメージが強いですが、現在の高機能な医薬品の多くはタンパク質でつくられています。
タンパク質はたった20種類のアミノ酸で構成されています。その組み合わせ次第で
高い機能を持つタンパク質を設計することができますが、組み合わせは無限と言えるほど存在します。
そこで活用が期待されているのが、AI技術です。この技術を、例えば膨大な時間がかかる医薬品開発などに導入できれば、
よりスピーディに、効率的に開発を進めることができるのです。

AIを活用し、効率的にタンパク質を設計するAIを活用し、効率的にタンパク質を設計する

東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 梅津 光央教授東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 梅津 光央教授

タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されていて、配列や長さを変えることで機能が変化しますが、この配列の組み合わせや長さには、無限のパターンが存在します。
私たち、ヒトの体の中にあるタンパク質もアミノ酸が1000個以上も配列されていると言われていて、まだわかっていないこともたくさんあります。我々の研究室では、高い機能や複数の機能を持ったタンパク質を自由に設計・つくることを目指しています。
アミノ酸の組み合わせに無限のパターンがあるということは、無限の可能性があるとも言えるわけですが、問題となるのは膨大な組み合わせの中から、どれが求めている機能を持つ組み合わせなのかを探すことです。この組み合わせがよいのではないか?と、仮説を立てたり、シミュレーションしたりしても、まだまだ膨大な量の実験とデータに向き合わなくてはなりません。

そこで、我々は人工知能(AI)を活用したタンパク質設計の研究を始めました。きっかけは、理化学研究所にある革新知能統合研究センター(AIP)で行われた、東京大学と産業技術総合研究所の先生方との共同研究です。この研究により、タンパク質設計における革新的なアプローチが可能になりました。
まず、すでに機能を持っていることがわかっているタンパク質の配列と機能のデータをAIに学習させます。ビッグデータではなく、精度の高い小数精鋭のデータをAIに学習させていくことで、我々が求める機能を持つ可能性が高いタンパク質の設計データを、無数にあるパターンから導き出してくれる確率が向上するのです。さらに、続けてそのデータを学習させることで、精度はどんどん高くなっていきます。
例えば、従来の方法では1万個のタンパク質の設計パターンから求める機能をもつ設計データ見つけることができなかったり、見つけるまで時間がかかったりするものが、このAI技術によって、100個程度の少数精鋭データから発見できるようになりました。

高い研究力、開発力はAIと研究者の合わせ技高い研究力、開発力はAIと研究者の合わせ技

このようにターゲットにしているタンパク質をまずはAIに探してもらうことで、人間が実験して見つけられなかったものを発見できたり、人間が検証する回数を減らすことができるわけですが、実際のところ、AIが得意とする膨大なデータ処理やルールに基づく判定などに加え、研究者の持つ知識と経験は肝要です。

質のよいデータを効率的に得るためには、より多くの質のよいデータを回収して、そこからどう組み替え、応用するかが重要になってきます。AIにたくさん学習させることでAIはより賢くなり、さらにルールが見つけやすくなるわけですが、求めるタンパク質を導き出すためには、これまでの研究で培った「経験」と「勘」も大切です。
私たちは、高い研究力、開発力を目指して、AI技術と併せて研修者の育成も行い、さらなる「合わせ技」を確立していきます。

梅津 光央教授

副作用が起きない、がん細胞にだけ効く薬をつくる副作用が起きない、がん細胞にだけ効く薬をつくる

東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 梅津 光央教授

私たちは現在、がん細胞にのみに効き、薬として機能するタンパク質の設計を目指しています。薬にはさまざまな種類があり、効果があると同時に、副作用が出てしまうものもあります。特に抗がん剤の多くはがん細胞だけでなく、同時に正常な細胞にも作用してしまうことから、患者さんはさまざまな辛い副作用で苦しむことがあります。
副作用が起きる要因の一つが、「細胞を攻撃する」という機能です。そこで私たちが目指すのは、「がん細胞を攻撃する」薬ではなく、「周囲にあるT細胞と呼ばれる免疫細胞に作用する」薬。これは、活性化させた免疫細胞をがん細胞にくっつけることで、がんの治療をする薬です。がん細胞と結合するための「手」を持ち、さらにT細胞を活性化させるという二つの機能を持つ、最適なタンパク質の設計を目指しています。
今後は、このような薬の開発にもAIを活用し、時間短縮とコストカットにつなげ、より多くの人が使いやすい薬の開発に貢献できればと思っています。
医薬品の開発から承認までには膨大な時間がかかり、そのコストは医薬品の費用に影響します。さらに、人体に使われるわけですから、研究データの収集・解析とさまざまな実験を繰り返して安全性を確立しなくてはならず、これにも莫大なコストがかかります。
しかし、承認され、多くの人に使ってもらえる薬になれば、かかったコストよりも大きなメリットを得ることができるのも医薬品開発の特徴です。
我々の技術が人々の健康を守り、豊かな社会を構築することの一助となることを祈っています。

広がる可能性。大学を越えて、タンパク質の探求は続く広がる可能性。大学を越えて、タンパク質の探求は続く

私たちはAIを使って最適なタンパク質設計を見出す方法を確立しました。この技術が世界中の研究者やさまざまな業界で活用できるのではと思っています。
私たちはこの技術を社会実装するべく、2021年4月に東北大学発のスタートアップとして『株式会社レボルカ(RevolKa)』を立ち上げました。社名のRevolKaはラテン語の「進化(evolutio)」と、東北・北海道の先住民族の言葉であるアイヌ語の「育てる(reska)」からとった造語です。
大学や研究室だけではできないことでも、企業としてなら推進できることが数多くあります。集中した人材の雇用や投資により設備や事業の大規模化が可能となり、多くの要望に応えることができます。
起業は大学での研究や教育とは全く違う側面があり、多くの困難もあります。けれども、私たちタンパク質の研究者にとって永遠の課題であるタンパク質の探求に必要なことであり、大きな挑戦だと思っています。

タンパク質を扱える研究者を育て、活躍できる場を提供するタンパク質を扱える研究者を育て、活躍できる場を提供する

東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 梅津 光央教授

このように、社会貢献までの道のりを最短にしたいと考えた結果、企業を立ち上げることになったのですが、企業を立ち上げた理由はほかにもあります。それは、一緒に研究をしてきた学生たちが自らの知識や技術を最大限に発揮できる場をつくりたいということです。我々のようなタンパク質の研究者は、ニッチな存在であるが故に、現状では活躍できる就職先が多いとは言えません。アカデミックな環境でどんなに優秀な人材を育てても、その人材の受け皿となる企業が少なければ、さらなる発展にはつながりません。
「レボルカ」という大学発スタートアップ企業が、優秀な研究者が活躍できる場になってほしいと思いますし、「レボルカ」が成功することで、我々の存在が研究者の希望になるはずであると考えています。
我々が大学で培った技術が産業界で展開できれば、アカデミアのその先の、可能性に満ちた未来を示せるのではないかと信じています。

東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 梅津 光央教授

梅津 光央
梅津 光央 UMETSU, Mitsuo

研究キーワード

タンパク質工学、進化分子工学、機械学習、抗体、酵素

2000年 東北大学大学院工学研究科生物工学専攻博士後期課程修了。2000年 ライデン大学の特別研究員を経て、2001年より東北大学大学院工学研究科助手、2014年 同バイオ工学専攻教授。
専門分野は、生体機能化学、タンパク質工学、分子認識、ハイブリッド自己組織化。
2005年 第20回生体機能関連化学部会部会講演賞、2005年 化学工学会内藤雅喜記念賞を受賞。

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